
作者: なほやん(https://syosetu.org/novel/405431/)
翻译: 机翻小说机器人(https://n.novelia.cc/novel/hameln/405431)
润色: 迂腐的甫渔
第一話 最後の希望
第一话 最后的希望
「你是最后的希望。」
「あなたが、最後の希望なのです」
联合国秘书长如是说。
国連事務総長がそう言った。
纽约,联合国总部,安全保障理事会的大会议厅——本该如此,但出席者寥寥无几。各国代表席有一半以上空着,坐在位子上的人也全都带着黑眼圈。
ニューヨーク。国連本部。安全保障理事会の大会議場——のはずだが、出席者はまばらだった。各国の代表席の半分以上が空席で、残りの席についている人間も、目の下に隈を刻んだ者ばかりだ。
所有人都因为游戏玩过头而睡眠不足。
ゲームのやりすぎで寝不足なのだ。全員。
「启动最终防壁计划。」
「最終防壁計画を発動します」
秘书长的声音落在空荡荡的议场。
事務総長の声が、がらんとした議場に落ちる。
「外星智慧体散布的VR程序造成的人类性别转换依存症,已经到达无法控制的阶段。全世界的玩家人数估计有四十二亿,连维持社会基础设施都有困难。」
「地球外知性体が散布したVRプログラムによる人類の性転換依存症は、もはや制御不能の段階に達しました。全世界のプレイ人口は推定四十二億。社会インフラの維持すら困難になりつつあります」
我——佐久间健吾仰望讲台。
俺——佐久間健吾は、壇上を見上げていた。
不知道自己为什么会在这里。
なぜ、俺がここにいるのか分からない。
讲台上并排着四张椅子,其中三张已经有人坐了。
壇上には四つの椅子が並んでいた。うち三つにはすでに人が座っている。
第一个人,亚历山大・沃尔科夫,前俄罗斯陆军上校,身经百战的猛男,手臂有我的身体那么粗。率领能以物理方式破坏VR机器的特殊部队的男人。我懂,我懂他被选上的理由。
一人目。アレクサンドル・ヴォルコフ元ロシア陸軍大佐。歴戦の猛者。腕が俺の胴体ほどもある。VR機器を物理的に破壊する特殊部隊を率いていた男だ。分かる。こいつが選ばれる理由は分かる。
第二个人,玛格丽特・杜邦博士,法国的脑科学家。世界上第一个发表TS依存症机制的论文,公开宣称要开发疫苗的人。我懂,我懂她被选上的理由。
二人目。マルグリット・デュポン博士。フランスの脳科学者。TS依存のメカニズムを世界で初めて論文にし、ワクチンの開発を公言している。分かる。
第三人,詹姆斯・华莱士,前美国副总统。向议会提出游戏禁止法,下令烧毁VR机器的强硬派。我懂,我懂他被选上的理由。
三人目。ジェームズ・ウォレス元アメリカ合衆国副大統領。ゲーム禁止法を議会に提出し、VR機器の焼却処分を命じた強硬派。分かる。
第四张椅子是空着的。
四つ目の椅子が、空いていた。
「佐久间健吾先生,请上台。」
「佐久間健吾さん。壇上へどうぞ」
我站起身,双腿在颤抖。会议厅里所有人的视线都集中在我身上,但有几个人偷偷在智能眼镜后面继续玩游戏。在联合国的会议中。
立ち上がる。足が震えている。会議場にいる全員の視線が俺に集まるが、何人かはこっそりスマートグラスの奥でゲームを続けていた。国連の会議中に。
我走上讲台,在第四张椅子上坐下。旁边的沃尔科夫上校抱着粗壮的手臂瞥了我一眼。
壇上に上がり、四つ目の椅子に腰を下ろす。隣のヴォルコフ大佐が、丸太のような腕を組んで俺を一瞥した。
「选错人了吧。」
「人選ミスではないか」
杜邦博士和华莱士前副总统,脸上都写着同样的想法。我自己也这么想。
デュポン博士もウォレス元副大統領も、明らかに同じことを思っている顔だった。俺も思っている。
秘书长清了清嗓子。
事務総長が咳払いをした。
「佐久间先生被选中的理由是——」
「佐久間さんが選ばれた理由は——」
他欲言又止,第一次露出犹豫的神情。
言い淀んだ。初めて見せる躊躇だった。
「……TS星人的指名。」
「……TS星人からの、指名です」
会议厅里鸦雀无声。
議場が、凍りついた。
「三天前,TS星人向人类发出了第二次通信。内容很简短——“让佐久间健吾加入最终防壁计划,否则将停止游戏服务器”。」
「三日前、TS星人から人類に向けて二度目の通信がありました。内容は短いものでした——『佐久間健吾を最終防壁に加えよ。さもなくばゲームのサーバーを停止する』」
我完全搞不懂。
意味が分からなかった。
TS星人认识我?他们认识在便利店打工的我?
俺のことを知っている? TS星人が? コンビニのバイトの俺を?
沃尔科夫上校用锐利的目光看着我。杜邦博士挑了挑眉。华莱士前副总统第一次开口。
ヴォルコフ大佐が鋭い目で俺を見た。デュポン博士の眉が跳ね上がった。ウォレス元副大統領が、初めて口を開いた。
「……为什么,要选这家伙?」
「……なぜ、こいつを?」
「不清楚。」
「分かりません」
秘书长摇了摇头。
事務総長は首を振った。
「但是,停止服务器运行是对全人类的威胁。数十亿的玩家会化为暴徒。我们只能服从。」
「ですが、サーバー停止は全人類への脅迫になります。数十億の依存者が暴徒と化す。従うほかなかった」
被威胁“要停止服务器运行”就屈服的人类。被敌人威胁“要没收游戏”就哭的人类。
サーバーを止めるぞ、と言われて屈する人類。敵に「ゲームを取り上げるぞ」と脅されて泣く人類。
……这也太丢人了吧。
……情けなさすぎないか。
「现在开始说明最终防壁计划的任务。」
「最終防壁としての任務を説明します」
秘书长继续说道。
事務総長は続けた。
「四名最终防壁计划成员,被全权委任制定和执行对TS战略。预算,人员,设备——可以自由使用所有资源。但是——」
「四名の最終防壁には、対TS戦略の立案と実行について全権が委任されます。予算、人員、設備——あらゆるリソースを自由に使用できます。ただし」
秘书长的视线直直地射向我。
事務総長の目が、俺をまっすぐ射抜いた。
「最终防壁计划的真正战略,只能存在于本人的脑海中。不能向任何人透露。因为——」
「最終防壁の真の戦略は、本人の頭の中にのみ存在しなければなりません。誰にも明かしてはならない。なぜなら——」
「因为有TS星人在监视。」
「TS星人が監視しているからですな」
沃尔科夫上校低声说道。
ヴォルコフ大佐が低い声で言った。
「没错。通信有可能被监听。文件和电子数据也很危险。最终防壁计划的战略只能存在于最终防壁计划成员自己的大脑中。」
「その通りです。通信は傍受されている可能性があります。文書も電子データも危険です。最終防壁の戦略が安全に存在できる場所は、最終防壁自身の脳の中だけです」
・・・
・・・
稍微把时间往前回溯。
話を少し巻き戻そう。
有些事情,静静地发生了。
それは、静かに始まった。
最初在网络上引起话题,是在一年前左右。
最初にネットで話題になったのは、一年ほど前のことだ。
出处不明的免费VR游戏散布到全世界。名字是『TS体』。内容很简单——在VR空间中,可以改变性别生活。
出所不明の無料VRゲームが世界中にばら撒かれた。名前は『TS体』。内容は単純——VR空間の中で、性別を変えて生活できる。
最初大家都觉得是噱头。
最初は誰もがネタだと思った。
『玩玩看好了www』
『やってみたwww』
『真的好厉害。触觉反馈的精度太奇怪了。无法用现有的VR技术来解释』
『マジでヤバい。触覚フィードバックの精度おかしい。既存のVR技術じゃ説明できない』
『角色生成好厉害。输入骨骼和肌肉的数据后,会自动输出「如果你是女性」的理想型。这已经不是普通AI的水平了。』
『アバター生成がやばい。骨格と筋肉のデータ入れたら「あなたが女性だったら」の理想形を自動で出してくる。AIなんてレベルじゃない』
『而且全语言实时翻译。用日语说话,对方听起来是法语。延迟为零。这不是地球的技术吧?』
『しかも全言語リアルタイム翻訳。日本語で喋ったら相手にはフランス語で聞こえる。遅延ゼロ。地球の技術じゃねえだろこれ』
『开发公司是哪里?→不明。也无法确定服务器的物理位置。太神秘了。』
『開発元どこ?→不明。サーバーの物理的所在地も特定できず。謎すぎる』
『玩了3天,不想回到现实了。救救我。』
『3日やったけどもう現実に戻りたくない。助けて』
『不救你。给我过来这边。』
『助けない。こっち来い』
SNS的timeline在一周内被填满了。
SNSのタイムラインが、一週間で埋め尽くされた。
#MyTSLife进入趋势榜,体验评论爆炸性地扩散开来。玩过的人全都说了同样的话。
#MyTSLife がトレンド入りし、体験レビューが爆発的に拡散された。プレイした人間は全員、同じことを言った。
——不想回到现实。
——現実に戻りたくない。
我透过智能手机的屏幕看着这一切。
俺はそれを、スマートフォンの画面越しに眺めていた。
「健吾,你也玩玩看吧。」
「健吾、お前もやれよ」
大学同学山崎这么说道。我们隔着食堂的桌子相对而坐,山崎的眼睛异常地闪闪发光。他似乎三天没出门了,但皮肤却莫名地漂亮,眉毛也修整过了,指甲上还涂着淡淡的透明指甲油。
大学の同期の山崎が言った。学食のテーブルを挟んで、山崎の目は異様に輝いていた。三日ぶりに外に出てきたらしい。なのに肌は妙に綺麗で、眉は整えられ、爪にはうっすら透明のマニキュアが塗られていた。
「没兴趣。」
「興味ねーよ」
我嘴上这么说,眼神却在四处游移。
と言いながら、俺の目は泳いでいた。
怎么可能没兴趣。我每天晚上都在浏览时间轴上流过的评论。书签文件夹的名称是「收集情报用」。明明不是要给别人看的,却取了这种像是借口一样的名字。
興味がないわけがない。タイムラインに流れてくるレビューを、俺は毎晩読み漁っていた。ブックマークのフォルダ名は「情報収集用」。誰に見せるわけでもないのに、言い訳がましい名前をつけていた。
「我说你啊」山崎探出身子。「玩一次就会懂的。真的。人生会改变哦。」
「お前さあ」山崎が身を乗り出す。「一回やったらわかるって。マジで。人生変わるぞ」
「我不想改变人生。」
「人生変えたくねーんだよ。」
「骗人。你不是在便利店打工吗?」
「嘘つけ。お前コンビニバイトだろ」
「……啰嗦。」
「……うるせえ」
山崎笑了笑,然后眼神变得认真起来。
山崎は笑って、それから真剣な目になった。
「我说健吾。我啊,有生以来第一次这么想——啊啊,这才是真正的自己。」
「なあ健吾。俺な、生まれて初めて思ったんだよ。——ああ、これが本当の自分だって」
我什么都没说。
俺は何も言えなかった。
下一周,山崎就没来大学了。只有信息有回复。满是颜文字,看起来非常开朗的信息。
翌週、山崎は大学に来なくなった。連絡だけは返ってきた。絵文字だけの、やけに明るいメッセージが。
下个月,课堂的出席率降到三成以下。
翌月、講義の出席率が三割を切った。
但是——但是户冢教授还站在讲台上。
だが——戸塚教授だけは、まだ教壇に立っていた。
宇宙物理学。空荡荡的教室里,只有我和教授。
宇宙物理学。がらんとした教室に、俺と、教授だけ。
户冢教授是个头发花白的瘦削男人,是我的导师。从我泡在研究室里的时候开始,就莫名地合得来。
戸塚教授は白髪交じりの痩せた男で、俺の指導教官だった。研究室に入り浸っていた頃から、妙に気が合った。
「佐久间同学。你,不玩吗?」
「佐久間くん。君は、やらないのかね」
「不玩。」
「やりません」
「是吗。明智的选择。」
「そうか。賢明だ」
教授看向窗外。校园里一片寂静。空无一人。
教授は窓の外を見た。キャンパスは静まり返っている。誰もいない。
「那个信号,我试着用自己的方式解析了一下。」
「あの信号を、私なりに解析してみた」
教授说了些什么。在TS体的源代码中发现的构造。用宇宙物理学者的眼光解读出来的,某种假说。
教授は何かを語った。TS体のソースコードの中に見つけた構造。宇宙物理学者の目で読み解いた、何かの仮説。
说实话,我连一半都没能理解。但是只有教授最后说的一句话,奇妙地留在了耳边。
正直に言えば、半分も理解できなかった。だが最後に教授が言った一言だけ、妙に耳に残っている。
「——宇宙,是一座粉红森林。」
「——宇宙は、ピンクの森林だ」
我不明白他的意思。现在也不明白。只是,我记住了那时教授的眼神。那个温和的人,第一次流露出恐惧的眼神。
意味が分からなかった。今も分からない。ただ、あの時の教授の目だけは覚えている。穏やかな人が、初めて見せた恐怖の目だった。
下周——户冢教授,站在讲台上。
翌週——戸塚教授は、教壇に立っていた。
戴着VR头显。
VRヘッドセットをつけたまま。
课程继续。宇宙物理学。
講義は続いていた。宇宙物理学。
「那么继续上次的内容。咱会把红移的计算公式写在白板上。」
「では前回の続きなのじゃ。赤方偏移の計算式をホワイトボードに書くのじゃ」
但是教授的声音,变成了通过变声器发出的高亢的少女的声音。
ただし教授の声は、ボイスチェンジャー越しの高い少女の声になっていた。
我和另一个学生,石化了。
俺ともう一人の学生が、石になった。
「怎么了?快给咱打开笔记本。」
「どうしたのじゃ? 早くノートを開くのじゃ」
六十一岁的宇宙物理学权威,用娇滴滴的语气解着微分方程式。
六十一歳の宇宙物理学の権威が、のじゃ口調で微分方程式を解いている。
我并不知道,教授在头显的后面是什么样的表情。我也不想知道。唯一可以确定的是——就连知道答案的人,也无法抗拒这份诱惑。
ヘッドセットの奥で、教授がどんな姿をしているのか、俺は知らない。知りたくもなかった。ただ一つ確かなのは——答えを知っていた人間ですら、抗えなかったということだ。
在那堂课之后,户冢教授再也没有来过大学。
その講義を最後に、戸塚教授も大学に来なくなった。
・・・
・・・
世界,以惊人的速度崩坏。
世界は、驚くほどあっさりと壊れていった。
华尔街。纽约证券交易所的交易员全部登陆在游戏中,交易被迫停止。道琼斯指数这个概念,从这一天起失去了意义。
ウォール街。ニューヨーク証券取引所のトレーダーが全員ログイン中であることが判明し、取引が停止した。ダウ平均株価という概念が意味を失った日だった。
莫斯科。俄罗斯军司令官在游戏里扮演魔法少女的视频被泄露。穿着军服拿着变身魔杖的五十七岁男人——视频在四十八小时内被播放了二十亿次。政权垮台。
モスクワ。ロシア軍の司令官がゲーム内で魔法少女をやっている映像がリークされた。軍服の上に変身ステッキを構える五十七歳の男——四十八時間で二十億回再生。政権が倒れた。
利雅得。宗教领袖发布「这是对神的亵渎」的性转换游戏禁止令。三天后,本人的登入记录被泄露。累计游戏时间,一千两百小时。虚拟形象的服装变更次数,三百一十二次。中东全域陷入战火。
リヤド。宗教指導者が「神への冒涜である」と性転換遊戯禁止令を発布した。三日後、本人のログイン履歴が流出。累計プレイ時間、千二百時間。アバターの衣装変更回数、三百十二回。中東全域が燃えた。
东京。秋叶原化为圣地。巨大显示器上播放的不是股价也不是新闻,而是TS体的游玩视频。路上戴着VR头显的人们并排坐在一起,一动也不动。外国媒体将这幅景象称为「东京的冥想」。这不是冥想。所有人内心都是美少女。
東京。秋葉原が聖地と化した。巨大モニターに映し出されるのは株価でもニュースでもなく、TS体のプレイ映像だ。路上にVRヘッドセットをつけた人間が並んで座り込み、誰一人動かない。外国メディアはその光景を「東京の瞑想」と呼んだ。瞑想じゃない。全員、中身は美少女だ。
然后——游戏的出处被查明了。
そして——ゲームの出所が判明した。
麻省理工学院和欧洲核子研究组织的联合团队,分析了埋藏在TS体源代码中的信号模式。结论只有一行。
MITとCERNの合同チームが、TS体のソースコードに埋め込まれた信号パターンを解析した。結論は一行で済んだ。
——这个程序,无法用地球上的技术制作。
——このプログラムは、地球上の技術では作れない。
这是来自宇宙的信号。
宇宙からの信号だった。
恐慌发生了。但是,恐慌的方向不太对。
パニックが起きた。だが、その方向が間違っていた。
人们害怕的不是「外星人要攻打地球了」,而是「外星人可能会停止游戏」。
人々は「宇宙人が攻めてくる」と怯えたのではない。「宇宙人がゲームを止めるかもしれない」と怯えたのだ。
各国政府尝试进行管制。游戏禁止法。VR机器的没收。对服务器的网络攻击。
各国政府は規制を試みた。ゲーム禁止法。VR機器の没収。サーバーへのサイバー攻撃。
全都失败了。
全て、失敗した。
禁止的国家发生了暴动。被没收的机器在黑市出现。服务器并不受攻击——地球的技术,根本无法确定其所在位置。
禁止した国から暴動が起きた。没収された機器の代わりに闇市場が生まれた。サーバーは攻撃を受け付けなかった——地球の技術では、そもそもその所在を特定できなかった。
TSO——地球TS协会成立了。他们的口号是这样的。
TSO——地球TS協会が結成された。彼らのスローガンはこうだ。
「这不是疾病。是进化。」
「これは病気ではない。進化だ」
联合国开始行动,是在全世界的玩家超过四十亿人的时候。
国連が動いたのは、世界のプレイ人口が四十億を超えた頃だった。
最终防壁计划。从没有玩过游戏的人中选出对策的制定者。
最終防壁計画。TS未経験者の中から対抗策の立案者を選出する。
——没有玩过TS游戏的人。
——TS未経験者。
这本身已经成为了濒危物种。
もはやそれ自体が、絶滅危惧種だった。
・・・
・・・
我举起了手。
俺は手を挙げた。
「那个……可以拒绝吗?」
「あの……辞退は、できますか」
会议厅的空气冻结了。三位最终防壁的视线刺了过来。只有秘书长平静地微笑着。
議場の空気が凍った。三人の最終防壁の視線が突き刺さる。事務総長だけが穏やかに微笑んだ。
「当然可以。最终防壁不是强制的。只要提交辞职申请,我们就会立即办理手续。」
「もちろんです。最終防壁は強制ではありません。辞退届を提出していただければ、すぐに手続きいたします」
我松了一口气。但没过多久——
ほっとした。のも束の間——
「但是。」
「ただし」
秘书长带着同样的微笑继续说道。
事務総長は、同じ微笑みのまま続けた。
「最终防壁的真正战略只存在于本人的脑海中。即使你辞职了——也没有人能确认你是否真的辞职了,还是假装辞职了。」
「最終防壁の真の戦略は、本人の頭の中にしか存在しません。あなたが辞めたとしても——本当に辞めたのか、それとも辞めたふりをしているのか。それを確かめる方法は、誰にもないのです」
我屏住了呼吸。
息が詰まった。
「无论是TS星人还是TSO,都没有办法证明你不再是最终防壁了。无论你辞职还是不辞职,你都会继续被盯上。」
「TS星人にも、TSOにも、あなたが最終防壁でなくなったことを証明する手段がない。辞めても辞めなくても、あなたは狙われ続けます」
啊——这样啊。
ああ——そうか。
在被选为最终防壁的时候,就已经无法退出了。
最終防壁に選ばれた時点で、もう降りられないのだ。
「那么最后,我要把给最终防壁的配给品交给你。」
「では最後に、最終防壁への支給品を渡します」
秘书长的声音低了一阶。
事務総長の声が、一段低くなった。
事务员将手提箱一个一个地交给四位最终防壁。
四人の最終防壁に一つずつ、事務員がアタッシュケースを手渡す。
里面装的是VR头显。
中身は、ヘッドセットだった。
光滑的表面没有接缝,说明了它并非地球制造的。
継ぎ目を感じさせないつるりとした表面が、それが地球で作られたものではないことを物語っている。
「为什么要……给我们这个?」
「なぜ……これを?」
不知道是谁小声嘀咕了一句。也有可能是我。
誰かが呟いた。俺かもしれなかった。
「为了了解敌人,有时需要进入VR。为了应对这种情况,我们准备了新品,而不是黑市的劣质品。」
「敵を知るために、VRに入る必要が生じることもあるでしょう。その場合に備え、闇市場の粗悪品ではなく新品を用意いたしました」
会议厅的气氛微微动摇。
議場の空気が、微かに揺れた。
「哼!」
「ふん!」
沃尔科夫上校用力关上了手提箱。金属扣发出了悲鸣。
ヴォルコフ大佐がアタッシュケースを閉じた。力任せに。金属の留め金が悲鳴を上げた。
「这种东西我绝对不会用。绝对不会。我甚至想亲手把它砸烂——我是军人。这三十年来,我都是靠这副身体战斗过来的。美少女?别开玩笑了。」
「こんなもの、絶対に使わない。絶対にだ。この手で叩き壊してやりたいくらいだ。——俺は軍人だ。三十年間、この体で戦ってきた。美少女だと? 馬鹿にするな」
「我也是同样的意见。」
「私も同意見です」
杜邦博士推了推眼镜。
デュポン博士が、眼鏡を押し上げた。
「我作为脑科学家可以断言,我完全理解自己的奖励系统。成瘾的机制已经整理成论文了。我不会屈服于自己理解的东西——绝对不会。」
「脳科学者として断言しますが、私は自分の報酬系を完全に理解しています。依存のメカニズムは既に論文にまとめました。理解しているものに屈するはずがない。——絶対に」
「没错。」
「その通りです」
华莱士前副总统深深地点了点头。
ウォレス元副大統領が、深く頷いた。
「我可是这个国家的第二把交椅,一直守护着这个国家的男人。我绝对不会被来历不明的玩具夺去心智。我已经向国民发过誓了。我不能背叛那些相信我的人。」
「私は大統領に次ぐ立場でこの国を守ってきた男だ。得体の知れない玩具に心を奪われるような真似は、絶対にしない。国民にもそう誓った。私を信じてくれている人々を、裏切るわけにはいかない」
三人各自断言道。
三人が、それぞれ言い切った。
绝对。绝对。绝对。
絶対に。絶対に。絶対に。
我只是静静地注视着头戴式显示器表面映出的自己的脸。
俺は、ただ静かにそのヘッドセットの表面に映る自分の顔を見つめていた。
我那张被光滑的曲面扭曲的脸,看起来似乎在微笑。
つるりとした曲面に歪んだ俺の顔が、少しだけ笑っているように見えた。
第二話 溶壁
第二话 溶壁
『早安——!』
『おはよー!』
『早安~♪你今天也好可爱哦。』
『おはよ〜♪ 今日もかわいいね』
『欸嘿嘿,谢谢。你才是,换了新造型吗?发色变了?』
『えへへ、ありがと。そっちこそ、新しいアバター? 髪の色変えた?』
『嗯!我试着把粉红色调浓了点。怎么样?』
『うん! ちょっとピンク強めにしてみた。どう?』
『糟糕,太可爱了。我可以摸摸你吗?』
『やばい、かわいすぎ。なでなでしていい?』
『可以呀~……欸嘿。』
『いいよ〜。……えへ』
TSO——地球TS协会的虚拟世界「大家的房间♡」,今天也甜蜜满满。
TSO——地球TS協会のワールド「みんなのおへや♡」は、今日も甘かった。
这里所有人都是美少女。无论内在是四十岁的上班族、十几岁的学生、还是六十岁的退休人士——都无所谓。虚拟化身的模样,就是「真正的自己」。
ここでは全員が美少女だ。中身が四十代の会社員でも、十代の学生でも、六十代の定年退職者でも——関係ない。アバターの姿が、ここでは「本当の自分」だ。
『呐呐,有没有人正在募集砂糖?』
『ねえねえ、お砂糖募集してる子いない?』
『啊,我有在意的人……不过对方还是酱油。』
『あ、わたし気になってる子いるんだけど……まだお醤油かな』
『酱油!很好啊,攻过去吧~』
『お醤油! いいじゃん攻めなよ〜』
『可、可是,如果对方只用人工甜味剂就结束的话怎么办……』
『で、でも人工甘味料で終わったらどうしよ……』
『没问题没问题。大家一开始都是这样。』
『大丈夫大丈夫。最初はみんなそうだから』
甜蜜。总之就是甜蜜。
甘い。とにかく甘い。
仿佛把砂糖溶进蜂蜜再用糖浆熬煮的空间。不会伤害任何人。不会否定任何人。你只要做你自己就好。可爱就是正义。可爱就是——
砂糖を溶かした蜂蜜をシロップで煮詰めたような空間。誰も傷つけない。誰も否定しない。あなたはあなたのままでいい。かわいいは正義。かわいいは——
『呐。』
『ねえ』
一名美少女,打断了聊天室的对话。
一人の美少女が、チャットの流れを止めた。
银发鲍伯头。红眼。用户名叫「冰雨」。在TSO中也是老手,深受信赖的成员。
銀髪のボブカット。赤い瞳。名前は「氷雨」。TSOの中でも古参で、信頼の厚いメンバーだった。
『那个计划,发动了呢。』
『発動されちゃったね。あの計画』
聊天室一瞬间安静了下来。
チャットが、一瞬だけ静かになった。
『是叫最终防壁来着?』
『最終防壁、だっけ』
『嗯。有四个人被选中了对吧?』
『うん。四人選ばれたんだよね?』
『军人,科学家,政治家……还有一个普通人?』
『軍人と、科学者と、政治家と……あとなんか、普通の人?』
冰雨发了一个微笑的表情。
氷雨は、微笑むスタンプを一つ送った。
『最终防壁,就是那些想要破坏我们世界的人。他们想要夺走这个地方——夺走大家好不容易找到的,能够做自己的地方。』
『最終防壁は、私たちの世界を壊そうとしている人たち。この場所を——みんながやっと見つけた、本当の自分でいられる場所を、奪おうとしてる』
『……是啊。』
『……そうだよね』
『我们要是没有这里,早就死了。一点都不夸张。』
『わたしたち、ここがなかったら死んでた。大げさじゃなく』
甜蜜的气氛一瞬间变得阴沉。
甘さが、一瞬だけ翳った。
但冰雨很快又恢复了柔和的声音。
だが氷雨は、すぐに柔らかい声に戻った。
『没事的。我们会融化这堵墙的。』
『大丈夫。私たちが、壁を溶かすから』
『融化……?』
『溶かす……?』
『嗯。虽然有四堵,但会按顺序来。』
『うん。四枚あるけど、順番にね』
她发了一段既没有颜文字,也没有表情包的简短文字。
絵文字も、スタンプも、何もつかない短い文章が並んだ。
『冰雨酱……?』
『氷雨ちゃん……?』
『没事的。一切都会顺利的。』
『大丈夫。全部うまくいくよ』
冰雨最后又发了一句话。
氷雨は最後にもう一つだけ書き込んだ。
『破坏墙壁的,并不是力量——而是可爱。』
『壁を壊すのはね、力じゃないんだよ。——かわいいだよ』
・・・
・・・
亚历山大・沃尔科夫原上校坐在作战会议的座位上。
アレクサンドル・ヴォルコフ元大佐は、作戦会議の席に座っていた。
这里是位于荒野的前线基地。退役的沃尔科夫被选为最终防壁,取回了指挥权,以此为据点。他曾经率领的VR机器破坏部队的残党——尚未使用过TS体的少数军人。他们的训练程度无可挑剔。
カザフスタン。荒野に建てられた前線基地。退役していたヴォルコフは、最終防壁に選ばれたことで指揮権を取り戻し、ここを拠点にしていた。かつて率いていたVR機器破壊部隊の残党——まだTS体に手を出していない数少ない軍人たち——の練度は申し分ない。
「现在开始说明明天的作战概要。」
「明日の作戦概要を説明する」
沃尔科夫站在部下们面前。
ヴォルコフは、部下たちの前に立った。
「根据我们的调查,已经锁定了三十七个VR头显的黑市流通路线。明天0400,我们将对其中规模最大的,经由哈萨克斯坦的走私据点进行同时搜查。」
「VRヘッドセットの闇市場ルートは、我々の調査で三十七箇所を特定済みだ。明日〇四〇〇、そのうち最大規模のカザフスタン経由の密輸拠点に対し、一斉摘発を実施する」
作战地图被投影出来。横穿中亚的走私路线上有多个箭头。
作戦マップが投影された。中央アジアを横切る密輸ルートに、複数の矢印が描かれている。
「第一中队从正面压制据点。第二中队控制周边的通信塔,阻断增援。第三中队确保撤退路线——目的是破坏头显的流通网。只要切断供给,就能减少新上瘾者。」
「第一中隊が正面から拠点を制圧。第二中隊は周辺の通信塔を押さえ、増援を遮断。第三中隊は撤退路の確保。——目的はヘッドセットの流通網の破壊だ。供給を断てば、新規の依存者を減らせる」
部下们点头。
部下たちが頷く。
副官伊莉娅·彼得罗夫中尉在沃尔科夫旁边静静地做着笔记。他从两年前开始担任副官。沉默寡言,能力出众,是沃尔科夫最信赖的部下。
副官のイリヤ・ペトロフ中尉が、ヴォルコフの隣で静かにメモを取っていた。二年前から副官を務めている。寡黙で、有能で、ヴォルコフが最も信頼する部下だ。
「有什么问题吗?」
「質問は」
「没有,上校。」
「ありません、大佐」
会议结束了。
会議が終わった。
・・・
・・・
当天晚上。
その夜。
沃尔科夫独自展开了另一张作战地图。
ヴォルコフは一人で、もう一つの作戦マップを広げていた。
这里是他的私人房间。他锁上了门。桌上的地图和会议上展示的完全不同,上面画着箭头。
私室。鍵をかけた部屋。机の上の地図には、会議で見せたものとは全く違う矢印が引かれている。
这不是走私据点的平面图。而是位于据点地下的——TS体中继服务器的构造图。冷却系统的管道。内部的电力系统。以及——炸药的设置位置。
密輸拠点の見取り図ではない。その奥——拠点の地下に隠されたTS体の中継サーバーの構造図だった。冷却システムの配管。内部の電力系統。そして——爆薬の設置箇所。
他要做的不是揭发走私。
流通の摘発ではない。
而是明天和服务器一起自爆。
明日、サーバーごと自爆する。
同时揭发是假的。真正的作战是沃尔科夫独自潜入地下的心脏部位,用绑在身上的炸药将服务器一起炸掉。他没有告诉部下们。最终防壁真正的战略必须只存在于他本人的脑海中。
一斉摘発は嘘だ。本当の作戦は、ヴォルコフ自身がたった一人で地下の心臓部に潜入し、体に巻いた爆薬でサーバーを道連れにすること。部下たちには知らせていない。最終防壁の真の戦略は、本人の頭の中にのみ存在しなければならない。
不能告诉任何人。不能让任何人看见。
誰にも言えない。誰にも見せられない。
最终防壁——人类最后的壁垒。
最終防壁——人類最後の壁。
沃尔科夫心想,他没有后悔。他知道,摧毁一个服务器对TS星人的技术来说只是杯水车薪。但是,这有意义。最终防壁赌上性命抵抗——这个事实将唤醒四十二亿堕落的灵魂。我的死将唤醒人类。作为军人,没有比这更好的结局了。
悔いはない、とヴォルコフは思った。サーバー一つを潰したところで、TS星人の技術の前では焼け石に水だ。分かっている。だが、意味はある。最終防壁が命を賭けて抵抗した——その事実が、四十二億の堕落した魂を叩き起こす。俺の死が、人類の目を覚まさせる。軍人として、これ以上の最期があるか。
沃尔科夫小心翼翼地叠好地图,收进军服的内袋里。
ヴォルコフは地図を丁寧に畳み、軍服の内ポケットにしまった。
有人敲了敲门。
ドアがノックされた。
「上校,我是彼得罗夫。」
「大佐。ペトロフです」
「进来。」
「入れ」
副官走了进来,手里端着两杯咖啡。这是他们一直以来的习惯。在夜间作战开始前,他们都会一起喝咖啡。
副官が入ってきた。手にはコーヒーが二つ。いつもの習慣だ。夜の作戦前に、二人でコーヒーを飲む。
「明天的准备已经万无一失,各中队的配置也已经确认完毕。」
「明日の準備は万全です。各中隊の配置も確認しました」
「辛苦了。」
「ご苦労」
沃尔科夫接过咖啡,喝了一口。
ヴォルコフはコーヒーを受け取り、一口飲んだ。
彼得罗夫也坐了下来,静静地喝着咖啡。
ペトロフも椅子に座り、静かにカップを傾けた。
沉默笼罩了整个房间。
沈黙が流れた。
「上校。」
「大佐」
「怎么了?」
「何だ」
「同时揭发——那是假的吧。」
「一斉摘発——あれは嘘ですね」
沃尔科夫手中的咖啡杯停了下来。
コーヒーカップが、止まった。
「走私据点的地下有服务器。您其实打算独自潜入那里,用绑在身上的炸药将服务器一起炸掉吧。您告诉部下们要揭发走私,只有自己知道真正的作战计划——按照最终防壁的原则。」
「密輸拠点の地下にサーバーがある。本当はお一人でそこに入り、体に巻いた爆薬でサーバーごと自爆するおつもりでしょう。部下には流通の摘発だと伝え、自分だけが本当の作戦を知っている。——最終防壁の原則通りに」
沃尔科夫缓缓地将杯子放到了桌子上。
ヴォルコフは、カップをゆっくりとテーブルに置いた。
「……你怎么知道的?」
「……なぜ分かった」
「因为我这两年来一直都在您的身边。」
「二年間、あなたの隣にいましたから」
彼得罗夫站了起来。
ペトロフが、立ち上がった。
「您在三周前用个人终端下载了地下服务器的构造图。我也确认过军方仓库里的C4已经消失了。揭发的路线也是故意将第一中队配置在地上的据点,让第二中队压制通信塔,为上校潜入地下做掩护——我全都看穿了。」
「地下サーバーの構造図を、三週間前に個人端末でダウンロードしましたね。軍の倉庫からC4が消えているのも確認済みです。摘発のルートは、わざと第一中隊を地上の拠点に集中させる配置になっている。第二中隊の通信塔制圧は、大佐が地下に潜る間の露払いです。——全部、見えていました」
沃尔科夫的眼神变得锐利起来。右手缓缓伸向腰间的枪套。
ヴォルコフの目が鋭くなった。右手がゆっくりと腰のホルスターに向かう。
「你——是什么人?」
「お前——何者だ」
「我是您的副官。这两年来一直如此。这并不是谎言。」
「あなたの副官です。二年間ずっと。それは嘘じゃない」
彼得罗夫的声音变了。
ペトロフの声が、変わった。
低沉的男声——融化了。失去了轮廓,一个音节一个音节变得柔和起来。最后剩下的,是清澈的少女的声音。
低い男の声が——溶けた。輪郭を失い、一音ずつ柔らかさを帯びていく。最後に残ったのは、透き通った少女の声だった。
「只不过——我还有另一个名字。」
「ただ——もう一つの名前があります」
彼得罗夫的手,摸了摸自己的脖子。军服的领子下藏着一个小小的装置。变声器。摘下变声器的指尖,以军人来说过于纤细。这两年来,为什么没有注意到呢。
ペトロフの手が、自分の首元に触れた。軍服の襟の下に隠されていた小さな装置。ボイスチェンジャー。それを外す指先は、軍人にしては細すぎた。二年間、なぜ気づかなかったのだろう。
「我在TSO的名字是冰雨。——是溶壁者。」
「TSOでの名前は、氷雨。——溶かし屋さんです」
冰雨向前走了一步。
氷雨は、一歩だけ近づいた。
「在被选为最终防壁之前,TSO就一直在关注您。因为您是对TS体抵抗最强烈的人,也是最渴望的人。」
「最終防壁に選ばれるずっと前から、TSOはあなたをマークしていました。TS体に最も強く抵抗する人間は、最も深く渇いている人間ですから」
「最终防壁沃尔科夫上校。我来猜猜您真正的战略吧。——自爆不是手段,而是目的。您想带着这九十三公斤的肉体一起消失。因为带着服务器一起上路的话,就能作为英雄死去——但您真正的理由,是想从这具身体里逃出来吧?」
「最終防壁・ヴォルコフ大佐。あなたの真の戦略を言い当てます。——自爆は手段じゃない。目的です。この九十三キロの肉体ごと消えたかった。サーバーを道連れにすれば英雄として死ねるから。——でもその本当の理由は、この体から逃げたかったんでしょう?」
沃尔科夫的右手伸向枪套。
ヴォルコフの右手がホルスターに向かった。
手指,却难以触及。
指が、グリップに届かなかった。
身体逐渐下沉。椅背承受了全身的重量。手臂变得像铅一样重。脚的感觉逐渐消失。心脏在跳动。肺在膨胀。意识——却清晰得可怕。
体が沈んでいく。椅子の背もたれが、全体重を受け止める。腕が鉛になった。足の感覚が薄れていく。心臓は動いている。肺は膨らんでいる。意識は——恐ろしいほど明瞭だ。
只有身体,变得不再属于自己。
体だけが、自分のものではなくなっていた。
「……咖啡。」
「……コーヒーに」
「加了肌肉松弛剂。」
「筋弛緩剤です」
冰雨的声音,近在咫尺。
氷雨の声が、近い。
「不会影响意识。看得见,听得见,感觉得到——只是,动不了。」
「意識には影響しません。見えるし、聞こえるし、感じる。——ただ、動けない」
沃尔科夫试图移动手指。连小拇指都动不了。一百八十公分,九十三公斤的身体,变成了呼吸的肉块。只有呼吸属于自己。吸气,呼气,仅此而已。
指を動かそうとした。小指一本。それすら叶わなかった。百八十センチ、九十三キロの体が、呼吸する肉塊に変わっていた。呼吸だけが自分のもの。吸って、吐いて、それだけ。
冰雨——曾是彼得罗夫的人,慢慢地蹲在沃尔科夫面前。为了配合他的视线高度。
氷雨が——ペトロフだったものが、ゆっくりとヴォルコフの前にしゃがんだ。視線の高さを合わせるように。
「害怕吗?」
「怖いですか?」
沃尔科夫瞪着冰雨,以此代替回答。只有眼球,还是属于自己的。
答える代わりに、ヴォルコフは氷雨を睨んだ。眼球だけが、まだ自分のものだった。
「两年来,我一直陪在您身边,我一直在想。」
「二年間、あなたの隣にいて思ったんです」
冰雨的手中,不知何时多出了头显和平板电脑。
氷雨の手の中に、いつの間にかヘッドセットとタブレット端末があった。
「上校,您真是个坚强的人」
「大佐は、本当に強い人だって」
平板电脑的屏幕亮了。冰雨纤细的手指,将屏幕转向沃尔科夫。
タブレットの画面が灯った。氷雨の細い指が、画面をヴォルコフの方へ傾ける。
「这具身体,这份精神,都是您花了三十年锻炼出来的,货真价实。」
「この体も、この精神も、三十年かけて鍛え上げた本物だって」
画面上显示的,是一位美少女。
画面に映っていたのは、美少女だった。
她穿着军服。是俄罗斯陆军的制服。肩上佩戴着上校的军衔。银色的短发沿着下巴的轮廓微微翘起。睫毛很长。眼神锐利,但锐利的深处却透着光芒。锁骨从军服的领口处隐约可见,纤细但并不柔弱。紧致的下巴。薄薄的嘴唇。
軍服を着ている。ロシア陸軍の制服。肩には大佐の階級章。短く刈り上げた銀髪の毛先が、顎のラインに沿ってわずかに跳ねている。睫毛が長い。鋭い目だが、その鋭さの奥に光がある。鎖骨が軍服の襟元から覗いていて、華奢だが甘さはない。引き締まった顎。薄い唇。
美少女正看着这边。
美少女が、こちらを見ていた。
沃尔科夫眯起眼睛——画面中的美少女也一样眯起了眼睛。
ヴォルコフが目を細めると——画面の中の美少女も、同じように目を細めた。
这是镜子。
鏡だった。
她正在实时追踪沃尔科夫的表情。沃尔科夫的表情,变成了美少女的表情。
リアルタイムで顔の動きをトレースしている。ヴォルコフの表情が、美少女の表情になって返ってくる。
「……谁?」
「……誰だ」
声音嘶哑。喉咙的肌肉也无法自由活动。只能勉强发出声音。
声が掠れた。喉の筋肉すら思うように動かない。絞り出すような音だった。
画面中的美少女的嘴唇,也做出了同样的动作——“谁?”。
画面の中の美少女の唇が、同じ形に動いた。——誰だ、と。
「这是你哦。」
「あなたです」
冰雨平静地说道。
氷雨は静かに言った。
「这是用TS体从你的身体数据生成的。骨骼,肌肉的分布,姿势的习惯,视线的角度——全都是你的。只是性别不同而已。」
「TS体で、あなたの身体データから生成しました。骨格、筋肉の付き方、姿勢の癖、目線の角度——全てあなたのもの。ただ性別だけが、違う」
「住——」
「やめ——」
画面中的少女皱起了眉头。表情痛苦——嘴唇动着“住手”。明明表情很痛苦,却也很美丽。
画面の中の少女が、眉を寄せた。苦しげに。——やめ、と唇が動いた。その表情が、苦しんでいるのに、美しかった。
「我不会停下的。」
「やめません」
冰雨的手摸上了沃尔科夫的额头。指尖滑过太阳穴。上面浮着汗珠。明明身体动不了,只有汗腺老实地传达着恐惧。
氷雨の手が、ヴォルコフの額に触れた。指先がこめかみを滑る。汗が浮いていた。体は動かないのに、汗腺だけが正直に恐怖を告白している。
「什么都没有坏掉。三十年间,你锻炼出来的所有东西,都在这里。」
「何も壊れていません。三十年間、あなたが鍛え上げたもの。全部ここにあります」
冰雨的拇指轻轻按住沃尔科夫眉间的皱纹。仿佛在说,放松。
氷雨の親指が、ヴォルコフの眉間の皺をそっと押さえた。力を抜け、と言うように。
画面中的美少女也舒展了眉间的皱纹。
画面の中で、美少女の眉間の皺もほどけた。
「只是变美了而已。」
「ただ、美しくなっただけ」
沃尔科夫想要闭上眼睛。但是闭不上。不是因为药。而是因为自己的意志,闭不上。
ヴォルコフは目を閉じようとした。だが閉じられなかった。薬のせいではない。自分の意志で、閉じられなかった。
沃尔科夫的表情扭曲了。拒绝。厌恶。愤怒——画面中的美少女也扭曲了表情。同样的愤怒,出现在那张脸上,就会变成这样吗。咬着嘴唇,吊起眉毛,瞪大眼睛。那是凄绝的美丽。
ヴォルコフは顔を歪めた。拒絶。嫌悪。怒り。——画面の中の美少女も顔を歪めた。同じ怒りが、あの顔に乗ると、こうなるのか。唇を噛み、眉を吊り上げ、目を見開く。凄絶な美しさだった。
愤怒的自己,从来没有这么漂亮过。
怒っている自分が、こんなに綺麗だったことは、一度もない。
突然——嘴角放松了。这是自嘲。因为觉得太蠢了。用动不了的身体,对画面中的美少女发火的自己。
不意に——口元が緩んだ。自嘲だった。馬鹿馬鹿しくなったのだ。動けない体で、画面の中の美少女に怒りをぶつけている自分が。
画面中的少女笑了。
画面の中の少女が、笑った。
同样的自嘲——本应如此。但是那个笑容,和沃尔科夫三十年间在镜子前看到的任何表情都不一样。放松下来,嘴角微微上扬,眼角变得柔和。
同じ自嘲——のはずだった。だがその笑みは、ヴォルコフが三十年間鏡の前で見てきたどの表情とも違った。力が抜けて、少しだけ口角が上がって、目尻が柔らかくなって。
啊啊,沃尔科夫想着。
ああ、と思った。
原来,自己也能笑得这么美。
俺は、こんなふうに笑えたのか。
「上校。」
「大佐」
冰雨的手摸上了沃尔科夫的头发。她用指尖梳理着那头剃短的银发,将额前的一缕头发拨到一边。
氷雨の手が、ヴォルコフの髪に触れた。短く刈り上げた銀髪を、指先で梳くように。額にかかった一房を、横に流す。
「不用再逞强了。」
「強がらなくていいんですよ」
她拿出头显。双手缓缓将头显靠近沃尔科夫的脑袋。
ヘッドセットが取り出された。氷雨の両手が、それをゆっくりとヴォルコフの頭に近づけていく。
「这两年,我一直看着你。看着你站在镜子前时的眼神。看着你确认自己身体时的眼神——那不是自豪的眼神。」
「二年間、ずっと見てました。鏡の前に立つ時のあなたの目。自分の体を確認する目。——あれは誇りの目じゃなかった」
头显停在了额头上。还差几厘米。
ヘッドセットが、額の上で止まった。あと数センチ。
「你一直在确认吧?确认自己还是这具身体,确认自己还能用这具身体战斗。每天早上,你都在对自己这么说。」
「確認してたんでしょう? まだこの体だ、まだこの体で戦える、って。毎朝、自分に言い聞かせてた」
沃尔科夫的呼吸乱了。吸气,呼气。明明只是自己的动作,节奏却乱了。
ヴォルコフの呼吸が乱れた。吸って、吐く。それだけが自分の動作なのに、そのリズムすら崩れていく。
「其实——」
「本当は——」
冰雨的手指碰到了沃尔科夫的耳朵。为了戴上头显,她将耳朵上方的头发拨到一边。军人的耳朵。伤痕累累的大耳朵。
氷雨の指が、ヴォルコフの耳に触れた。ヘッドセットのバンドを通すために、耳の上の髪をかきあげる。軍人の耳。傷だらけの、大きな耳。
「——你其实想变成这样吧?」
「——こうなりたかったんでしょう?」
沃尔科夫的眼神动摇了。干涸的双眸突然湿润了。
ヴォルコフの目が揺れた。乾いた瞳が、不意に潤んだ。
「……不。」
「……違う」
声音在颤抖。否定的话语中带着肯定的意味。
声が震えていた。否定の言葉が、肯定の響きを帯びていた。
「那你为什么不肯移开视线?」
「じゃあ、なぜ目を逸らさないんですか?」
沃尔科夫答不上来。
答えられなかった。
冰雨轻轻擦去沃尔科夫额头上的汗。她用手指隔着手帕,从额头划到眉间,然后是太阳穴,最后是耳后。
氷雨の手が、ヴォルコフの額の汗をそっと拭った。ハンカチ越しの指先が、額から眉を辿り、こめかみを通り、耳の後ろへ抜けていく。
「我帮你擦干净了——毕竟是第一次登录。」
「きれいにしますね。——初めてのログインですから」
头戴式显示器落了下来。
ヘッドセットが降りてきた。
它碰到了额头。表面光滑,没有接缝。既不是金属也不是树脂,是地球上不存在的材料,冰凉又光滑。
額に触れた。継ぎ目のない、つるりとした表面。金属でも樹脂でもない、地球上に存在しない素材の、ひんやりとした滑らかさ。
它从额头覆盖到侧头部,然后是耳朵,最后是后脑勺。视野边缘的光线逐渐消失。从上方,从侧面,一点一点地。
それが額から側頭部へ、耳を覆い、後頭部を包む。視界の端から光が消えていく。上から、横から、じわじわと。
最后只剩下平板电脑的画面。在逐渐变暗的视野中心,出现了军装美少女的脸。
最後に残ったのは、タブレットの画面だけだった。暗くなっていく視界の中心に、軍服の美少女の顔がある。
她在微笑。
微笑んでいた。
那是自己的脸。自己的笑容。
自分の顔だった。自分の笑い方だった。
三十年来,自己在镜子前一次都没有露出过这种表情。这具身体无法做到的笑容,却存在于那具身体上。
三十年間、鏡の前で一度も浮かべたことのない表情だった。この体でできなかった笑顔が、あの体にはある。
视野关闭了。
視界が閉じた。
变暗。
暗転。
然后——是光。
そして——光。
视野打开的瞬间,沃尔科夫看到了自己的手。
視界が開いた瞬間、ヴォルコフは自分の手を見た。
真是娇小。
小さかった。
明明是自己的手,却只有记忆中的一半大小。手指很细,指甲很薄。手腕到手肘的线条上,没有一道伤痕。
自分の手のはずなのに、記憶にある手の半分ほどしかない。指が細い。爪が薄い。手首から肘にかけてのラインに、傷跡が一つもない。
这双手自己从未见过。但是——他知道这是自己。
見覚えのない手。なのに——自分だと分かる。
试着握拳。这个动作,确实是自己的。和三十年来握拳时一样的用力方式。一样的角度。只是——
握ってみた。拳を作る。その動きが、たしかに自分のものだった。三十年間握ってきた拳と同じ力の入れ方。同じ角度。ただ——
原来这么轻。
こんなに軽いのか。
原来这么漂亮。
こんなに、きれいなのか。
吸气。肺很小。胸口很轻。肩膀很窄。脖子很细。全部都很小,全部都很轻——像是脱掉了三十年来一直背负的钢铁铠甲一样的解放感。但是没有变弱的感觉。不如说身体像是被优化了一样,全身上下都是自己的。
息を吸った。肺が小さかった。胸が軽い。肩幅が狭い。首が細い。全てが小さくて、全てが軽くて——三十年間背負ってきた鋼鉄の鎧を脱ぎ捨てたような解放感。なのに弱くなった感覚はない。むしろ体が最適化されたように、隅々まで自分のものだった。
整理军服的领子。反射性地。每天早上都会做的习惯。指尖捏住领子的边缘,左右对称地整理。
軍服の襟を正した。反射的に。毎朝やる癖だ。指先が襟の端をつまみ、左右対称に整える。
那手指,很细。明明是自己的手指。明明是自己的动作。
その指が、細かった。自分の指なのに。自分の動きなのに。
三十年来,一次都没有想过——真是漂亮。
三十年間、一度も思ったことがない。——きれいだ、と。
膝盖失去了力气。
膝から力が抜けた。
在哭。
泣いていた。
在大声哭泣。用新的声音。高亢,清澈的声音。
声を上げて泣いていた。新しい声で。高く、透き通った声で。
不是自己的声音——不,是自己的声音。就在刚刚,这变成了自己的声音。
自分のものではない声——いや、自分の声だ。たった今、自分の声になった。
「——欢迎。」
「——ようこそ」
冰雨的声音,从很远的地方传来。
氷雨の声が、どこか遠くから聞こえた。
「来到这边。」
「こちら側へ」
・・・
・・・
我——佐久间健吾,透过显示器看着那个影像。
俺——佐久間健吾は、モニター越しにその映像を見ていた。
联合国分配给我们的单间。最终防壁上显示着彼此据点的影像。名义上是确认同伴的安危——实际上是相互监视。
国連から割り当てられた個室。最終防壁には互いの拠点の映像が共有されている。仲間の安否確認——という建前の、相互監視だ。
画面中,沃尔科夫上校戴着头显。他深深地坐在椅子上,一动不动。只有嘴角微微地——笑着。
画面の中で、ヴォルコフ大佐がヘッドセットを被っていた。椅子に深く沈んだまま、微動だにしない。口元だけが微かに——笑って、いた。
本应赌上性命破坏服务器的男人,被两年来一直陪伴在身边的人溶化了。最终防壁的第一层崩塌的声音,是哭泣声。
命を賭けてサーバーを潰すはずだった男が、二年間隣にいた人間に溶かされた。最終防壁の、一枚目が崩れた音は、泣き声だった。
我的手提箱放在显示器旁边。联合国配发的头显还放在里面。一次都没打开过。只有几个触碰过扣锁的痕迹。
モニターの横に、俺のアタッシュケースが置いてある。国連で支給されたヘッドセットが入ったままだ。まだ一度も開けていない。留め金に触れた跡だけが、いくつもついていた。
那个魔鬼上校在笑。露出有生以来第一次的安心表情。
あの鬼大佐が、笑っている。生まれて初めて安らいだ顔で。
我从显示器上移开视线。移开的视线停在手提箱上。
俺はモニターから目を逸らした。逸らしたはずの視線が、アタッシュケースの上で止まった。
「……我不会做的。」
「……俺は、やらない」
我开口说道。
声に出して言った。
因为如果不这么说,感觉自己就输了。
声に出さないと、負けそうだったからだ。
第三話 副作用
第三话 副作用
「就差一点了。疫苗的最终阶段。」
「あと少しよ。ワクチンの最終段階」
巴黎,第七区的公寓。早晨。
パリ。七区のアパルトマン。朝。
玛格丽特・杜邦博士在厨房的桌子喝着咖啡。黑咖啡,不加糖。脑科学家不摄取甜食,因为不想无谓地刺激奖励系统。
マルグリット・デュポン博士は、キッチンのテーブルでコーヒーを飲んでいた。ブラック。砂糖なし。脳科学者は甘いものを摂らない。報酬系を不必要に刺激したくないからだ。
「沃尔科夫上校,堕落了呢。」
「ヴォルコフ大佐、堕ちたね」
坐在对面的丈夫阿伦,一边倾斜杯子一边说道。临床心理师,巴黎第五大学的副教授。如果玛格丽特处理的是脑的构造,阿伦处理的就是脑的内容物。
向かいに座る夫のアランが、カップを傾けながら言った。臨床心理士。パリ第五大学の准教授。マルグリットが脳の構造を扱うなら、アランは脳の中身を扱う。
「我听说了。」
「聞いたわ」
玛格丽特的声音很平淡。最终防壁的第一道。那个魔鬼上校,被两年来待在身旁的副官——溶壁者给溶解了。
マルグリットの声は平坦だった。最終防壁の一枚目。あの鬼大佐が、二年間隣にいた副官に——溶かし屋さんに、溶かされた。
「害怕吗?」
「怖いかい?」
「不。」
「いいえ」
她推了推眼镜。
眼鏡を押し上げる。
「我是脑科学家哦。TS依存的机制是我首先在世界上解析出来的。奖励系统的构造、多巴胺的分泌模式,全部都整理在论文里。」
「私は脳科学者よ。TS依存のメカニズムは私が世界で初めて解明した。報酬系の構造も、ドーパミンの分泌パターンも、全て論文にまとめてある」
她喝了一口咖啡。
コーヒーを一口。
「我不会屈服于理解的事物——绝对不会。」
「理解しているものには、屈しない。——絶対に」
阿伦露出微笑。温和的微笑。但是深处有玛格丽特无法看透的某种东西。
アランは微笑んだ。穏やかな笑み。だがその奥に、マルグリットには読めない何かがあった。
「呐,玛格丽特。你的论文,我也读过了哦。确实是很棒的研究——但可以问一个问题吗?」
「ねえ、マルグリット。君の論文、僕も読んだよ。素晴らしい研究だった。——一つだけ聞いていいかな」
「请说。」
「どうぞ」
「你解析的依存的机制——不适用于你自己吗?」
「君が解明した依存のメカニズム——君自身には、適用されないのかい?」
玛格丽特笑了。
マルグリットは笑った。
「不适用。我是观察者,不是被实验者。」
「されないわ。私は観察者であって、被験者ではないもの」
「比起这个,有一件麻烦事。」
「それより、厄介なことが一つ」
玛格丽特放下咖啡杯。
マルグリットはコーヒーカップを置いた。
「TSO派出了溶壁者这个刺客。为了将最终防壁一个一个——溶解的专职人员。沃尔科夫上校的副官就是其中之一。」
「TSOが、溶かし屋さんという刺客を放ってきている。最終防壁を一人ずつ——溶かすための専任者。ヴォルコフ大佐の副官が、それだった」
「来自身边的刺客吗?」
「身近な人間に化けて、か」
「嗯。两年间都在身边,却什么都没注意到——还剩三道防壁。包括我在内。」
「ええ。二年間隣にいて、何も気づかなかったそうよ。——残る壁は、三枚。私を含めて」
玛格丽特的声音低沉下去。
マルグリットの声が、低くなった。
「研究室的助手,同事……说不定,连家人都不能相信。谁都不能相信。」
「研究室の助手も、同僚も。……もしかしたら、家族でさえ。誰も信用できない」
阿伦喝了一口咖啡。
アランは、コーヒーを一口飲んだ。
「真可怕。」
「怖いね」
「嗯,是很可怕。」
「ええ、怖いわ」
「——你在怀疑我吗?」
「——僕のことも、疑っているのかい?」
玛格丽特笑了。
マルグリットは笑った。
「只有你,是没问题的。」
「あなただけは、大丈夫よ」
阿伦什么都没说。只是微笑着。窗外的塞纳河反射着三月的朝阳。
アランは何も言わなかった。ただ微笑んだ。窓の外では、セーヌ川が三月の朝日を跳ね返していた。
・・・
・・・
『沃尔科夫先生来了!』
『ヴォルコフさん来てるー!』
『啊,是亚历酱!早上好♪』
『あ、アレクちゃんだ! おはよ〜♪』
『早,早上……好。』
『お、おはよう……ございます』
『还在用敬语!我们已经是同伴了吧?』
『まだ敬語! もう仲間でしょー?』
『抱歉。那个……还不习惯。』
『すまない。その……慣れなくて』
『好可爱……前军人的反差萌,太棒了……』
『かわいい……元軍人のギャップ、たまらん……』
『别,别说我可爱。我——我——』
『か、かわいいはやめてくれ。俺は——私は——』
『随便啦。在这里你可以做自己♪』
『どっちでもいいよ〜。ここでは好きな自分でいていいの♪』
“大家的房间♡”今天也甜蜜满满。
ワールド「みんなのおへや♡」は今日も甘かった。
『听说有人向亚历酱申请砂糖了。』
『ねえねえ、アレクちゃんにお砂糖申し込んだ子いるらしいよ』
『哎 是谁!?』
『えっ だれ!?』
『没有!没有!我——我——还没有——』
『ない! ないから! 俺は——私は——まだ——』
『这孩子说了“还没有”!』
『「まだ」って言ったよこの子!』
『注意措辞哦!』
『言い方〜!』
冰雨静静地登入了。
氷雨が、静かにログインした。
『——大家,能听我说两句吗?』
『——みんな、ちょっといい?』
聊天室一下子安静了下来。所有人都知道,冰雨要讲正事了。
チャットが、ふわりと静かになる。氷雨が真剣な話をする時の空気を、全員が知っていた。
『有一道墙融化了。』
『壁が一枚、溶けたね』
沉默。
沈黙。
『沃尔科夫上校——现在是亚历酱吧。欢迎回来。』
『ヴォルコフ大佐——今はアレクちゃん、かな。おかえりなさい』
『……我回来了。』
『……ただいま、です』
短短的回复,下面叠了十个以上的心形贴纸。
短い返事に、ハートのスタンプが十個以上重なった。
『不过,还有三道防壁。』
『でも、まだ三枚あるよ』
冰雨的文字缓缓地流动。
氷雨の文字が、ゆっくり流れた。
『接下来是——杜邦博士。法国的脑科学家。解析了TS依存的机制,正在制作疫苗的人。』
『次は——デュポン博士。フランスの脳科学者。TS依存のメカニズムを解明して、ワクチンを作ってる人』
『疫苗……真的能做出来吗?』
『ワクチン……あれ本当にできるの?』
『好可怕……会被治好的吗?』
『こわい……治されちゃうの?』
『不要,我不想变回去……!』
『やだよ、元に戻りたくない……!』
冰雨发了一个笑咪咪的猫的贴图。
氷雨は一つだけスタンプを送った。にっこり笑う猫。
『没事的——溶壁者已经来到她身边了。』
『大丈夫。——溶かし屋さんは、もう隣にいるよ』
・・・
・・・
巴黎。拉・皮萨尔迪耶尔医院。神经科学研究楼。深夜。
パリ。ラ・サルペトリエール病院。神経科学研究棟。深夜。
玛格丽特·杜邦博士在显示器前露出了时隔十四个月的笑容。
マルグリット・デュポン博士は、モニターの前で十四ヶ月ぶりに笑っていた。
疫苗。人类史上第一个针对TS依赖症的根治药。
ワクチン。TS依存症に対する、人類初の根本治療薬。
十四个月的研究终于汇聚成一个分子结构。明天,她将向联合国报告。
十四ヶ月の研究が、ようやく一つの分子構造に収束した。明日、国連に報告する。
研究室的门打开了。
研究室のドアが開いた。
「你还在啊。」
「まだいたのかい」
是阿伦。他披着大衣,围着围巾。巴黎的三月夜晚很冷。
アランだった。コートを羽織り、マフラーを巻いている。パリの三月の夜は寒い。
「我来接你。已经凌晨两点了。」
「迎えに来たよ。もう午前二時だ」
「再等一下——」
「あと少し——」
「你总是这么说。」
「いつも、あと少し、だろう」
阿伦走进研究室,站在玛格丽特身后。他看向显示器。
アランは研究室に入り、マルグリットの背後に立った。モニターを覗き込む。
分子结构式。临床数据。
分子構造式。臨床データ。
「……疫苗完成了吗?」
「……完成したのかい。ワクチン」
「嗯。明天,我会向联合国——」
「ええ。明日、国連に——」
「玛格丽特」
「マルグリット」
阿伦的声音变了。在平静的语气中,可以窥见一丝强硬。
アランの声が変わった。穏やかさの底に、硬いものが覗いた。
「这不是疫苗吧。」
「これは、ワクチンじゃないね」
玛格丽特的手指停在了键盘上。
マルグリットの指が、キーボードの上で止まった。
「……你在说什么?」
「……何を言っているの」
「我是临床心理学家。这十四个月里,我一直陪在你身边,阅读你的研究笔记。无论是公开的还是未公开的——我的工作就是看穿你隐瞒了什么。」
「僕は臨床心理士だよ。十四ヶ月、君の横で研究ノートを読んでいた。公開されたものも、されていないものも。——君が何を隠しているかを読むのが、僕の仕事だ」
阿伦缓缓地转过玛格丽特的椅子,让她面向自己。
アランがマルグリットの椅子をゆっくりと回した。向き合う形になる。
「这个药的目标不是多巴胺受体,而是性激素系统。通过逆向推算TS星人的技术设计而成的分子结构。从注射开始七十二小时后,男性的身体就会不可逆地女性化。骨骼,肌肉量,脂肪分布,声带,皮肤质感——全部。」
「この薬の標的は、ドーパミン受容体じゃない。性ホルモン系だ。TS星人の技術を逆算した分子設計。投与から七十二時間で、男性の身体を不可逆的に女性化する。骨格、筋肉量、脂肪分布、声帯、肌質——全部」
玛格丽特脸上的表情消失了。
マルグリットの顔から、表情が消えた。
「性别转换诱导剂——这就是你所谓“疫苗”的真面目吧?」
「性転換誘導剤。——それが君の『ワクチン』の正体だろう?」
沉默。
沈黙。
漫长的,漫长的沉默。
長い、長い沈黙。
「……没错。」
「……そうよ」
玛格丽特缓缓摘下眼镜。
マルグリットは、ゆっくりと眼鏡を外した。
「TS依存症的机制核心,就在于VR理想体与现实肉体之间的差距。变成美少女后登出就会变回男性身体。这种落差会催生渴望——那么只要消除差距就行了。只要把现实的身体变成女性,就没有理由逃进VR了。」
「TS体の依存メカニズムの核心は、VRの理想体と現実の肉体とのギャップにある。美少女になってログアウトすると男の体に戻る。この落差が渇望を生む。——ならギャップを消せばいい。現実の体を女性にしてしまえば、VRに逃げる理由がなくなる」
「你打算混进自来水里吗?」
「水道水に混ぜるつもりだったのかい」
「从法国开始,展示结果。各国都会追随的」
「フランスから始めて、結果を示す。各国が追随するわ」
阿伦静静地点了点头。
アランは頷いた。静かに。
「完美的逻辑。只有作为脑科学家熟知奖励系统的人才能得出这个结论——除了一个致命的缺陷。」
「完璧な論理だ。脳科学者として報酬系を知り尽くした人間だからこそ辿り着く結論だね。——一つだけ、致命的な欠陥を除けば」
阿伦从口袋里取出一个小东西。
アランがポケットから、小さなものを取り出した。
粉色的,猫的徽章。
ピンク色の、猫のバッジ。
是TSO的会员章。
TSOの会員章だった。
「阿伦——」
「アラン——」
「我在TSO里的名字是珂赛特——是第二位溶壁者哦。」
「僕のTSOでの名前は、コゼット。——溶かし屋さんの、二人目だよ」
玛格丽特的脸色变得苍白。
マルグリットの顔から、血の気が引いた。
「……从什么时候开始的?」
「……いつから」
「从TS依存症开始流行的时候——也就是你开始写论文的时候。你每天晚上都待在研究室里,而我一个人待在家里。对于临床心理学者来说,那款游戏是很有意思的研究对象——至少一开始是这样。」
「TS体が出回り始めた頃——君が論文を書き始めた頃だよ。君が毎晩遅くまで研究室にいる間、僕は一人で家にいた。臨床心理士にとって、あのゲームは興味深い研究対象だった。——最初はね」
阿伦直直地看着玛格丽特。
アランの目が、マルグリットをまっすぐ見た。
「我要指出你战略中的致命缺陷。」
「君の戦略の、致命的な欠陥を言い当てるよ」
「……你说吧。」
「……聞くわ」
身为科学家,她不得不听。
科学者として、聞かないわけにはいかなかった。
「你的药会完美地发挥作用。男性的身体会在七十二小时内变成女性。骨骼,声音,皮肤都会。」
「君の薬は完璧に機能する。男性の体は女性になる。骨格も、声も、肌も、七十二時間で」
「……嗯。」
「……ええ」
「那请问——」
「じゃあ聞くよ」
阿伦的声音低了一阶。
アランの声が、一段下がった。
「——变成女性的他们,会很美吗?」
「——女性になった彼らは、美しいのかい?」
玛格丽特瞪大了眼睛。
マルグリットの目が見開かれた。
「你的药会让身体变成女性,但不会变成理想的美少女。四十多岁的上班族只会变成四十多岁的女性。二十多岁的学生只会变成二十多岁的——普通的女性。」
「君の薬は体を女性にする。でも理想の美少女にはしない。四十代のサラリーマンは四十代の女性になるだけだ。二十代の学生は二十代の——普通の女性になるだけ」
「TS依存症会呈现出『如果你是女性』的理想形象。那是从骨骼开始优化的,不存在于这个世界的完美美少女——而你的药会制造出现实的,不完美的女性身体。」
「TS体が見せるのは、『あなたが女性だったら』の理想形。骨格から最適化された、この世に存在しない完璧な美少女だ。——君の薬が作るのは、現実の、不完全な女性の体」
「玛格丽特,你无法消除这种反差。」
「ギャップは消えないよ、マルグリット」
阿伦的视线直直地射向玛格丽特。
アランの目が、まっすぐマルグリットを射抜いた。
「——只会扩大影响。」
「——広がるんだ」
玛格丽特的呼吸停止了。
マルグリットの呼吸が止まった。
「至今为止一直是男性的人,只有进入VR才能了解女性的身体。如果他们用你的药在现实中获得了女性的身体呢?——他们二十四小时都会被迫面对自己身体的不完美。每次照镜子,每次穿衣服,每次意识到自己比不上那个女孩。」
「今まで男性だった人間は、VRに入らなければ女性の体を知らなかった。君の薬で現実に女性の体を手に入れたら? ——今度は二十四時間、自分の体の不完全さを突きつけられる。鏡を見るたびに。服を着るたびに。あの子には敵わない、と思うたびに」
「至今为止『只有在登入时』存在的渴望,会变成永远。」
「今まで『ログイン中だけ』だった渇望が、永遠にになる」
「你做的不是疫苗。」
「君が作ったのは、ワクチンじゃない」
阿伦的声音在颤抖。
アランの声が震えた。
「——而是入口。」
「——入り口だよ」
玛格丽特无法动弹。她坐在椅子上,听着自己构建的完美理论一个音节一个音节地崩溃的声音。
マルグリットは動けなかった。椅子に座ったまま、自分が組み上げた完璧な論理が、一音ずつ崩壊していく音を聞いていた。
消除反差?正好相反。她制造了让反差永远持续下去的药。
ギャップを消す? 逆だ。ギャップを永続化する薬を作っていたのだ。
「……为什么?」
「……なぜ」
她的声音嘶哑了。
声が掠れた。
「为什么,你会知道这些?」
「なぜ、あなたにそれが分かるの」
阿伦握住了玛格丽特的手。
アランは、マルグリットの手を取った。
「因为我——已经在玩TS体了。」
「僕は——もうやっているからだよ。TS体を」
玛格丽特的表情扭曲了。
マルグリットの顔が歪んだ。
「从三个月前开始。你待在研究室的晚上,我一直在登入。」
「三ヶ月前から。君が研究室にいる夜、僕はログインしていた」
「你——是男性吧?那为什么——」
「あなたは——男でしょう? それなのに——」
「不是为什么。正是因为我是男性。」
「それなのに、じゃない。だからこそだよ」
阿伦的声音有些动摇。在临床心理师的冷静之下,渗出了无法完全隐藏的某种东西。
アランの声が、少しだけ揺れた。臨床心理士の冷静さの下に、隠しきれない何かが滲んでいた。
「我知道。在VR中遇到理想的自己,登出之后再照镜子。那时候的——落差。你的药,会把那个落差分发给四十二亿人。」
「僕は知っている。VRの中で理想の自分に出会って、ログアウトした後に鏡を見る。そのときの——落差を。君の薬は、あの落差を四十二億人に配るんだ」
阿伦的手伸进了大衣内侧。他拿出来的是——头显。光滑的表面。地球上不存在的材料。
アランの手が、コートの内側に伸びた。取り出したのは——ヘッドセット。つるりとした表面。地球上に存在しない素材。
「我希望你能看看——你理想的自己。」
「見てほしい。——君の理想の君を」
「不要。」
「やめて」
「只是看看就好。作为脑科学家。作为数据。」
「見るだけでいいんだ。脳科学者として。データとして」
「数据……」
「データ……」
玛格丽特的手在颤抖。作为科学家的好奇心。那是借口。她明白。世界上对奖励系统构造理解最深的人,正要输给自己的奖励系统。
マルグリットの手が震えた。科学者としての好奇心。それは言い訳だ。分かっている。報酬系の構造を世界で一番理解している人間が、自分の報酬系に負けようとしている。
「我不会屈服于自己理解的东西」——自己的话在脑海中回响。
「理解しているものには屈しない」——自分の言葉が、頭の中で反響した。
「没错。你理解了其中的机制。」
「そう。君はメカニズムを理解している」
阿伦的声音缓缓地渗入耳朵。
アランの声が、ゆっくりと耳に染み込んできた。
「但是啊,玛格丽特——理解,和抵抗,是两回事。」
「でもね、マルグリット。——理解と、抵抗は、別物だよ」
头显在玛格丽特的手中。不知道是什么时候接过来的。
ヘッドセットが、マルグリットの手の中にあった。いつ受け取ったのか分からなかった。
「……就一次。」
「……一回だけ」
「嗯。就一次。」
「ああ。一回だけ」
阿伦微笑了。和那个早晨一样的微笑。知道一切的表情。
アランが微笑んだ。あの朝の微笑みと同じ顔。全てを知っていた顔。
头显,碰到了额头。
ヘッドセットが、額に触れた。
变暗。
暗転。
然后——光。
そして——光。
充满了光。——玛格丽特,反射性地确认了自己的手。这是观察者的习惯。
光が満ちた。——マルグリットは、反射的に自分の手を確かめた。観察者の癖だ。
确实是自己的手。同样的手指。同样的指甲——但是毛孔消失了。三十八年份的小伤,晒伤的痕迹,干燥粗糙的指尖,全部都消失了。
自分の手だった。同じ指。同じ爪。——でも毛穴が消えている。三十八年分の小傷も、日焼けのムラも、乾燥で荒れた指先も、全部なくなっている。
腹侧盖野释放了多巴胺——脑科学家分析道。奖励系统的初期反应。在预料之内。还能控制。
腹側被蓋野からドーパミンが放出されている——と、脳科学者が分析した。報酬系の初期反応。想定内。まだ制御できる。
一根一根地弯起手指,试着握拳。关节的动作是自己的。但是指腹,格外光滑。因为打字而变得粗糙的皮肤,像一块布一样均匀平整。自己的手的完成形。
指を一本ずつ折って、握ってみた。拳を作る。関節の動きは自分のもの。だが指の腹が、やけに滑らかだった。タイピングで荒れたはずの皮膚が、一枚布のように均一に整っている。自分の手の完成形。
摸了摸头发。同样的颜色。同样的卷发。但是手指一穿过——没有丝毫阻力。每天早上都会睡乱的头发就像假的一样,头发顺从重力落在肩膀上。发梢掠过锁骨。那个触感,非常甜美。
髪に触れた。同じ色。同じ癖毛。だが指を通すと——抵抗がない。毎朝格闘していた寝癖が嘘のように、髪が重力に従って肩に落ちる。毛先が鎖骨を掠めた。その感触が、甘かった。
——侧坐核的活性化。多巴胺D2受体的——不。只是头发在摇晃而已。
——側坐核の活性化。ドーパミンD2受容体の——いや。ただ髪が揺れただけだ。
把手放在脸上。下巴的线条,清爽了几毫米。颧骨的位置稍微高了点。眼睛是同样的形状。但是睫毛很长。非常长。每次眨眼,视野的边缘都会掠过自己的睫毛。
顔に手を当てた。顎のラインが、数ミリだけすっきりしている。頬骨の位置が僅かに高い。目は同じ形。だが睫毛が長い。ずっと長い。瞬きするたびに、視界の端を自分の睫毛が掠める。
脊背,擅自挺直了。
背筋が、勝手に伸びた。
驼背。三十八年一直如此。在显示器前弯着的背。买了矫正带三天就扔掉的背。那个背——现在,没有用力,笔直地伸着。肺部扩张了。吸气的话,胸廓就会坦率地打开。第一次注意到,自己的身体一直很拘束。
猫背だった。三十八年間ずっと。モニターの前で丸まった背中。矯正ベルトを買っては三日で棄てた背中。それが——今、何の力みもなく、まっすぐに伸びている。肺が広がった。息を吸うと、胸郭が素直に開く。今まで自分の体が、ずっと窮屈だったことに初めて気づいた。
——奖励系统的活性化,超出了预想。前额叶皮质的抑制机能——。
——報酬系の活性が、想定を超えている。前頭前皮質の抑制機能が——。
快逃。
逃げろ。
作为科学家的本能发出了警告。玛格丽特闭上眼睛。吸气四秒,吐气七秒。迷走神经刺激法。让副交感神经活性化,镇压奖励系统的暴走。这是自己在论文中写的手法。教给实验对象的手法。
科学者としての本能が警告した。マルグリットは目を閉じた。四秒吸って、七秒吐く。迷走神経刺激法。副交感神経を活性化させ、報酬系の暴走を鎮める。自分が論文に書いた手法だ。被験者に教えてきた手法だ。
重复了三次。心跳稳定下来了。——好。还在控制之下。还能继续当观察者。
三回繰り返した。心拍が落ち着いた。——よし。制御下にある。まだ、観察者でいられる。
睁开眼睛。
目を開けた。
白大衣的下摆,沿着腰身落下。平时会卡住的臀部的突起消失了,布料笔直地流下。白大衣压在肩膀上的重量,稍微改变了。明明是同样的白大衣,却第一次合身了。
白衣の裾が、腰に沿って落ちている。いつもは引っかかるヒップの出っ張りが消えて、布がまっすぐに流れている。肩に乗る白衣の重さが、僅かに変わっている。同じ白衣のはずなのに、体に合っていた。初めて。
试着发出声音。
声を出してみた。
「……玛格丽特。」
「……マルグリット」
自己的名字。自己的声音。同样的声音——但是透明度稍微增加了。杂质消失。就像是只收集了自己声音最漂亮瞬间的声音。
自分の名前。自分の声。同じ声だ——だが僅かに透明度が増している。雑味が消えている。自分の声の、一番綺麗な瞬間だけを集めたような声。
再一次。
もう一度。
「玛格丽特·杜邦。」
「マルグリット・デュポン」
全名。发音,并不相同。明明是同样的名字,听起来却这么的美丽。
フルネーム。響きが、違った。同じ名前なのに、こんなに綺麗に聞こえるのか。
眼泪流出来了。不知道为什么。骗人。我知道。从腹侧被盖野到侧坐核的多巴胺投射超过了阈值。报酬预测误差——
涙が出た。なぜか分からなかった。嘘だ。分かっている。腹側被蓋野から側坐核へのドーパミン投射が閾値を超えた。報酬予測誤差が——。
分析很完美。理解了全部的机制。理解了之后,眼泪还是止不住。
分析は完璧だった。メカニズムの全てを理解していた。理解した上で、涙が止まらなかった。
有镜子。
鏡があった。
白大衣。眼镜。束起的头发。平时的自己——想要成为的样子。
白衣。眼鏡。まとめた髪。いつもの自分——の、こうなりたかった姿。
腰身的线条自然地流露出来。白大衣下的身体有着最合适的平衡。不是模特也不是演员。而是自己的,最好的版本。
腰回りのラインが自然に流れている。白衣の下の体が最適のバランスを持っている。モデルでも女優でもない。自分の、一番いい版。
试着摘下眼镜。镜中的自己也摘下了眼镜。那个动作,非常有模有样。拿着眼镜的手指。倾斜手腕的角度。三十八年间一直做的动作,在这个身体上,全部都变成了画。
眼鏡を外してみた。鏡の中の自分も外す。その仕草が、さまになっていた。眼鏡を持つ指。傾ける手首の角度。三十八年間やってきた動作が、この体では全部、絵になった。
——依赖形成之前的估计时间。
——依存形成までの推定時間。
想要计算。作为脑科学家。
計算しようとした。脳科学者として。
做不到。数字,没有出现。取而代之的是镜中的自己在微笑。一边哭一边微笑的脸,无比美丽。
できなかった。数字が、出てこなかった。代わりに鏡の中の自分が微笑んでいた。泣きながら微笑んでいる顔が、綺麗だった。
即使知道,还是无法从镜子前离开。
分かった上で、鏡の前から動けなかった。
「——玛格丽特。」
「——マルグリット」
有声音。
声がした。
回头一看,少女站在那里。
振り向くと、少女が立っていた。
栗色的短发。柔和的眼神。嘴角,是熟悉的微笑。是阿伦的微笑。那种温和,出现在少女的脸上,就会变成这样吗。
栗色のショートヘア。柔らかい目。口元に、見覚えのある微笑み。アランの微笑みだ。あの穏やかさが、少女の顔に乗ると、こうなるのか。
「阿伦……?」
「アラン……?」
「是珂赛特哦。如果是在这里的话。」
「コゼット、だよ。ここでは」
珂赛特,走近了一步。白色的连衣裙。纤细的锁骨。阿伦的面容,溶入了少女的轮廓中。只有眼睛的颜色是一样的。二十年来一直注视着的,那双眼睛。
コゼットが、一歩近づいた。白いワンピース。細い鎖骨。アランの面影が、少女の輪郭の中に溶けている。目の色だけが同じだった。二十年間見つめてきた、あの目。
「很漂亮呢,玛格丽特。」
「綺麗だね、マルグリット」
「你也是——」
「あなたも——」
珂赛特的手指,触碰了玛格丽特的脸颊。比阿伦的手指更细,更冰凉。但是触摸的方式是一样的。从脸颊到下巴,滑向耳朵的后面。这是二十年份的习惯。
コゼットの指が、マルグリットの頬に触れた。アランの指より細くて、ひんやりしている。でも触れ方は同じだった。頬から顎をなぞり、耳の後ろへ滑らせる。二十年分の癖。
——接触报酬的增幅。VR触觉反馈会带来比现实高三倍的奖励系统活性——
——接触報酬の増幅。VR触覚フィードバックは現実の三倍の報酬系活性を——。
分析,开始。
分析が、走る。
「呐——」
「ねえ」
珂赛特的脸靠近了。
コゼットの顔が近づいた。
「可以,接吻吗?」
「キス、していい?」
——催产素的分泌预测。由于扁桃体活性降低而解除警戒心。这是——
——オキシトシンの分泌予測。扁桃体の活性低下による警戒心の解除。これは——。
嘴唇,触碰了。
唇が、触れた。
思考,消失了。
思考が、消えた。
不是二十年来重复的触感。少女的嘴唇,触碰着少女的嘴唇。柔软。温暖。甜美的呼吸扑鼻而来。阿伦的嘴唇很干,有点硬,但是玛格丽特喜欢。珂赛特的嘴唇——不一样。柔软的性质不同。像果实的表面一样,按下去就会下沉的弹性。自己的嘴唇在那里融化。同样的柔软,逐渐消除了彼此的边界。
二十年間繰り返してきた感触ではなかった。少女の唇が、少女の唇に触れている。柔らかい。温かい。甘い呼吸が鼻先にかかる。アランの唇は乾いていて、少し硬くて、でもそれが好きだった。コゼットの唇は——違った。柔らかさの質が違う。果実の表面のような、押せば沈む弾力。そこに自分の唇が溶けていく。同じ柔らかさが、互いの境界を消していく。
膝盖弯下了。
膝が折れた。
珂赛特纤细的手臂支撑着腰部。不是阿伦强壮的手臂。但是,只有这种支撑方式,才是阿伦。绕到腰上的手的角度。拉过来的力道。二十年份的记忆,寄宿在少女的手臂上。
コゼットの華奢な腕が腰を支えた。アランの逞しい腕ではない。でもその支え方だけが、アランだった。腰に回る手の角度。引き寄せる力の加減。二十年分の記憶が、少女の腕に宿っている。
睁开眼睛。珂赛特的睫毛就在眼前。很长。在那深处,有阿伦的眼睛。
目を開けた。至近距離にコゼットの睫毛がある。長い。その奥に、アランの目がある。
二十年来,一直和这个人接吻。这种感觉,还是第一次。
二十年間、この人とキスしてきた。こんなの、初めてだった。
「…………再来一次。」
「…………もう一回」
玛格丽特的声音在颤抖。不是作为脑科学家,而是作为一个女人。
マルグリットの声が、震えていた。脳科学者としてではなく、ただの女として。
「要几次都行。」
「何回でも」
珂赛特微笑着。
コゼットが微笑んだ。
第二次,闭上了眼睛。珂赛特的手指触碰着玛格丽特的后脑勺。像是要撩起头发一样。指尖触碰到后颈的瞬间,背脊传来一阵甜蜜的麻痹感。嘴唇没有分开。不想分开。珂赛特的呼吸在玛格丽特的嘴唇上融化。玛格丽特的呼吸在珂赛特的嘴唇上融化。不知道是谁的呼吸,在两人之间来往。
二回目は、目を閉じた。コゼットの指がマルグリットの後頭部に触れた。髪を掻き上げるように。うなじに指先が触れた瞬間、背筋に甘い痺れが走った。唇が離れない。離したくない。コゼットの吐息がマルグリットの唇の上で溶ける。マルグリットの吐息がコゼットの唇の上で溶ける。どちらのものか分からない呼吸が、二人の間で行き来している。
第三次,玛格丽特主动触碰了。
三回目は、マルグリットの方から触れた。
嘴唇分开后,珂赛特用手指梳理着玛格丽特的头发。
唇が離れた後、コゼットがマルグリットの髪を指で梳いた。
「呐,玛格丽特。这种关系——叫做砂糖哦。你知道吗?」
「ねえ、マルグリット。こういうの——お砂糖って言うんだよ。知ってた?」
「……不知道。」
「……知らない」
「特别亲密的关系。只存在于VR中——我们,是二十年的夫妻。」
「特別に親しい関係。VRの中だけの。——僕たち、二十年夫婦だったけど」
珂赛特的手指,将玛格丽特挂在耳朵上的头发拨到后面。
コゼットの指が、マルグリットの耳にかかった髪を後ろに流した。
「砂糖,是第一次呢。」
「お砂糖は、初めてだね」
玛格丽特什么也没说。比二十年的婚姻更甜蜜的关系,就在这里。
マルグリットは何も言えなかった。二十年の結婚より甘い関係が、ここにあった。
——报酬系的分析。依存形成的预测。戒断症状的计算。
——報酬系の分析。依存形成の予測。離脱症状の計算。
全部,都无所谓了。
全部、もういい。
玛格丽特没有摘下眼镜。
マルグリットは眼鏡をかけなかった。
・・・
・・・
我——佐久间健吾,透过显示器看着那个影像。
俺——佐久間健吾は、モニター越しにその映像を見ていた。
巴黎的研究室。杜邦博士戴着头显。旁边的男性——博士的丈夫,握着她的手。
パリの研究室。デュポン博士がヘッドセットを被っている。隣にいる男性——博士の夫が、その手を握っていた。
博士在头显下,缓缓摘下眼镜。摘下的眼镜,放在桌子上。仿佛在说,已经不需要了。
博士がヘッドセットの下で、ゆっくりと眼鏡を外した。外した眼鏡を、机の上に置いた。もう要らない、とでも言うように。
第二道墙壁溶解的声音,是眼镜碰到桌子的微小声音。
二枚目の壁が溶けた音は、眼鏡がテーブルに触れる小さな音だった。
显示器的旁边,是我的手提箱。联合国配发的头显还放在里面。扣具的痕迹,比昨天增加了。
モニターの横に、俺のアタッシュケースがある。国連で支給されたヘッドセットが入ったままの。留め金の跡が、昨日より増えていた。
「……我,不干。」
「……俺は、やらない」
我发出声音说。第三次了。
声に出して言った。三回目だった。
我注意到,每说一次,声音就变得更小。
回を追うごとに、声が小さくなっていることに、俺は気づいていた。
溶壁者,是身边的人。副官。丈夫。——最信赖的人,最能正确地溶解墙壁。
溶かし屋さんは、身近な人間がなる。副官。夫。——最も信頼している相手が、最も正確に壁を溶かす。
我突然想到。
俺は、ふと考えた。
我在便利店打工。朋友只有山崎,那个山崎也早就沉入TS体了。和家人关系疏远。没有恋人。
コンビニバイト。友達は山崎だけで、その山崎もとっくにTS体に沈んだ。家族とは疎遠。恋人はいない。
身边的人,没有。
身近な人間が、いない。
那么——我的溶壁者,是谁?
じゃあ——俺の溶かし屋さんは、誰だ?
第四話 夜勤
第四话 夜班
溶壁者的存在,让联合国陷入混乱。
溶かし屋さんの存在は、国連を混乱させた。
最终防壁计划是不是失败了——甚至有相关人士公开这么说。被选为人类最后堡垒的四人之中,有两人被TSO的刺客溶化。沃尔科夫上校现在在TSO的世界里被称为「亚历酱」。杜邦博士自从和丈夫一起登入之后,已经三天没有回来了。
最終防壁計画は失敗だったのではないか——そう公言する関係者もいた。人類の最後の砦として選ばれた四人のうち、二人がTSOの刺客に堕とされた。ヴォルコフ大佐は今やTSOのワールドで「アレクちゃん」と呼ばれている。デュポン博士は夫と一緒にログインしたきり、三日間戻ってこない。
剩下的墙壁,还有两面。
残った壁は、二枚。
华莱士前副总统似乎没有离开华盛顿的住处。他只凭「溶壁者会从身边的人开始下手」这个情报,就把自己关在房间里。他不和任何人见面,不和任何人说话,独自在墙壁的另一侧拟定战略。
ウォレス元副大統領は、ワシントンの自室から出てこないらしい。「溶かし屋さんは身近な人間がなる」——その情報だけで、あの強硬派が自分の部屋に閉じこもった。誰にも会わず、誰とも話さず、壁の向こうで一人、戦略を練っているのだろう。
我——只是自甘堕落地过日子。
俺は——ただ、自堕落に過ごしていた。
……
・・・
最终防壁的全权,超乎我的想象。
最終防壁の全権は、想像以上だった。
摩天大楼的最顶层、高级食材、专属护卫、无限制的预算。
タワマンの最上階。高級食材。専用の護衛。無制限の予算。
护卫的山田先生——我不知道他的本名,是我擅自这么称呼的——每天早上都会站在门前。他似乎原本是自卫官,表情严肃,但眼睛下方有黑眼圈。
護衛の山田さん——本名は知らない、俺が勝手にそう呼んでいる——が、毎朝ドアの前に立っている。元自衛官らしい。厳しい顔をしている。が、目の下に隈がある。
「山田先生,你有好好睡觉吗?」
「山田さん、ちゃんと寝てます?」
「……佐久间先生才是,您今天也要出勤吗?」
「……佐久間さんこそ、今日も出勤ですか」
山田先生的眼神有些黯淡。我明白他的心情。
山田さんの目が、かすかに曇った。気持ちは分かる。
但是,我却不想辞掉这份工作。
でも、なぜかバイトをやめる気にはならなかった。
……
・・・
便利店的夜班是从晚上十点到第二天早上六点。
コンビニの夜勤は、午後十時から翌朝六時まで。
站在收银台前,说着“欢迎光临”,扫描条形码,询问“需要袋子吗”,说着“谢谢惠顾”。
レジに立つ。「いらっしゃいませ」と言う。バーコードを読む。「袋いりますか」と聞く。「ありがとうございましたー」と言う。
这些事情,对现在的我来说是必要的。
それだけのことが、今の俺には必要だった。
最近,戴着VR头显来店的客人变多了。现在有一半以上都是这样。在头显的另一侧和美少女嬉戏,用现实中的手抓着饭团,用现实中的脚走到收银台。结账是用手机的自动支付。不需要交谈。
最近、VRヘッドセットをつけたまま来店する客が増えた。今や半数以上がそうだ。ヘッドセットの向こうで美少女をやりながら、現実の手でおにぎりを掴み、現実の足でレジまで歩いてくる。会計はスマホの自動決済。言葉を交わす必要もない。
自动门打开了。
自動ドアが開いた。
两个人。戴着头显。
二人連れ。ヘッドセット着用。
手牵着手。
手を繋いでいた。
把两个布丁放进篮子里。一样的。同样的味道。
プリンを二つ、カゴに入れた。おそろいの。同じ味の。
「欢迎光临。」
「いらっしゃいませ」
下一个客人,再下一个客人,都在头显的另一侧和某人一起欢笑。我听不到的笑声。我看不到的世界。
次の客も、その次の客も、ヘッドセットの向こうで誰かと笑い合っている。俺には聞こえない笑い声。俺には見えない世界。
深夜两点。客人不再光顾。
深夜二時。客足が途絶える。
好闲。
暇だった。
打开手机。匿名论坛。最终防壁的帖子每天都在增加。
スマホを開いた。匿名掲示板。最終防壁のスレッドは毎日伸びている。
『沃尔科夫上校的TS姿态,比想象中还要可爱。』
『ヴォルコフ大佐のTS姿、想像以上にかわいかった件』
『杜邦博士和丈夫一起堕落,不觉得太感人了吗?』
『デュポン博士、旦那と一緒に堕ちたのエモすぎない?』
『剩下两个人什么时候会堕落?副总统和……谁来着,便利店的人?』
『残り二人いつ堕ちるの? 副大統領と……誰だっけ、コンビニの人?』
『啊——那个路人角色啊。被TS星人指名的那个。好像什么都没做。』
『あーあのモブ枠ね。TS星人に指名されたやつ。何もしてないらしい』
『浪费税金到哭的程度。』
『税金の無駄すぎて泣ける』
……嗯,我知道。
……うん、知ってる。
我隐藏着自己的名字,在帖子上发了言。
俺は、名前を伏せたままスレッドに書き込んだ。
『我是大富豪,但正在便利店上夜班。』
『大富豪だけどコンビニの夜勤やってる』
三秒后就有了回复。
三秒で返事がついた。
『骗人辛苦了w』
『嘘乙w』
『设定太夸张了吧?w』
『設定盛りすぎじゃない?w』
『有什么不好,VR就是可以随心所欲地设定嘛~』
『いいじゃんVRなんだから好きな設定で生きなよ〜』
『我可是当上了总统哦!』
『わたしなんか大統領やってるよ!』
『我是猫耳女仆,时薪八百万美元哦?』
『私は猫耳メイドで時給八百万ドルだけど?』
明明全都是真的。
全部本当なのに。
谁都不相信的真相,和谁都会相信的谎言。世界已经变成了这样。
誰にも信じてもらえない本当と、誰にでも信じてもらえる嘘。世界はもう、そっち側にできている。
我滚动帖子,看到了一个与众不同的回复。
スレッドをスクロールしていると、一つだけ毛色の違うレスが目に入った。
『但是,你看起来不怎么开心啊。』
『でもお前、楽しそうじゃないな』
我无法回复。
返せなかった。
我关闭了帖子。手指触碰到了当前趋势。
スレッドを閉じた。指がトレンドに触れた。
『和砂糖第一次牵手了。手指在颤抖。对方也在颤抖』
『お砂糖の子と初めて手を繋いだ。指が震えた。向こうも震えてた』
『我懂 第一次接触真的有电流通过的感觉』
『わかる 最初の接触まじで電気走る』
『牵手就哭,你是初中生吗……虽然我也是这样……』
『手繋ぎで泣くとか中学生かよ……わたしもそうだったけど……』
『你们打算用牵手消费多少帖子啊』
『お前ら手繋ぎで何スレ消費するつもりだ』
另一个帖子。
別のスレッド。
『已经不知道现实中的脸了。就算照镜子也会想「这是谁?」』
『もう現実の顔わからん。鏡見ても「これ誰?」ってなる』
『VR的呼吸更轻松,真的假的?现实中的身体太拘束了吧?』
『VRの方が呼吸楽なのマジで何? 現実の体窮屈すぎん?』
『虽然害怕但很开心。到底是哪边呢——两边都是』
『怖いけど嬉しい。どっちだろ。——両方だ』
『两边都是的说法好帅』
『両方ニキかっこいい』
『放弃人类身份的感想是“虽然害怕但很开心”已经可以算文学了吧』
『人類やめた感想が「怖いけど嬉しい」なのもう文学だろ』
看起来很开心。看起来很幸福。
楽しそうだった。幸せそうだった。
手指停不下来。每读一条,内心深处就有某种东西在隐隐作痛。
指が止まらない。一つ読むたびに、胸の奥で何かが疼いた。
——我花了很长时间才意识到,原来我是在羡慕。
——羨ましいのだと、気づくのに時間がかかった。
我合上了手机。
スマホを伏せた。
——手机震动了。
——震えた。
通知。一个陌生的APP。我不记得有安装过。
通知。見覚えのないアプリ。インストールした記憶がない。
粉色的图标。猫耳的轮廓。
ピンクのアイコン。猫耳のシルエット。
『初次见面♪我是Navi子!』
『はじめまして♪ ナビ子です!』
画面上显示着一个角色。粉红色的头发。Q版的大眼睛。非常可爱。
画面いっぱいにキャラクターが表示されていた。ピンク髪。デフォルメされた大きな目。やたらと可愛い。
是广告吗。我打算关掉。
広告か。閉じようとした。
『等一下等一下!不要关掉!』
『待って待って! 閉じないでっ!』
手指停了下来。
指が、止まった。
『这是只限佐久间先生的特别活动通知哦♪TS体,初次体验现在完全免费!而且定制选项全部开放!配合佐久间先生的喜好,创造世界上独一无二的虚拟形象——』
『佐久間さんだけの特別キャンペーンのお知らせだよ♪ TS体、初回体験が今なら完全無料! しかもカスタマイズオプション全開放! 佐久間さんの好みに合わせて、世界でたった一人のアバターを——』
知道我的名字。是针对性广告吗。
名前を知っている。ターゲティング広告か。
『呐呐,有兴趣吗?大家都沉迷其中哦?有四十二亿人在玩哦?』
『ねえねえ、興味ない? みーんなハマってるよ? 四十二億人が遊んでるんだよ?』
四十二亿。真准确。
四十二億。正確だな。
『那个,佐久间先生。Navi子,可以问你一个问题吗?』
『あのね、佐久間さん。ナビ子、一つだけ聞いていい?』
「……」
「……」
『你刚才看了论坛吧?那个砂糖讨论串。』
『さっき掲示板見てたでしょ? お砂糖スレ』
我的后背开始发凉。
背中が冷たくなった。
「……你看到了吗?」
「……見てたのか」
『没看到哦!只是对佐久间先生有点在意♪ ——啊,今天便利店的工作辛苦了♪』
『見てないよ! 佐久間さんのことが気になってるだけ♪ ——あ、今日もコンビニお疲れさま♪』
便利店。上面没有写。论坛上也没有,联合国数据库里也没有。——这家伙,为什么会知道?
コンビニ。どこにも書いていない。掲示板にも、国連のデータベースにも。——こいつ、なぜ知っている?
「……你,是什么人?」
「……お前、何者だ」
『Navi子就是Navi子哦♪』
『ナビ子はナビ子だよ♪』
「…………」
「…………」
『TS体啊,一个人玩也很开心哦?就算没有砂糖对象。只要喜欢上自己的身体,世界就会改变。看着镜子想着“这就是我”——光是这样,就舒服得让人想哭哦?』
『TS体ってね、一人でも楽しいんだよ? お砂糖相手がいなくても。自分の体が好きになるだけで、世界が変わるの。鏡を見て「これが私だ」って思える。それだけで——泣けるくらい、気持ちいいんだよ?』
关掉。现在马上关掉。
閉じろ。今すぐ閉じろ。
『佐久间先生,你喜欢自己吗?』
『佐久間さんは、自分のこと好き?』
关掉了。
閉じた。
一秒后,收到了通知。同样的图标。
一秒後、通知が来た。同じアイコン。
『Navi子随时随地都能见到你哦♪ 还会再来的♪』
『ナビ子はいつでもどこでも会えるから♪ また来るね♪』
这次我把手机盖上了。
今度こそスマホを伏せた。
・・・
・・・
深夜三点。
深夜三時。
便利店的自动门外,可以看到星星。
コンビニの自動ドアの外に、星が見えた。
在东京能看到星星很稀奇。但是支撑基础设施的人类有一半都在登入中。文明越是倾斜,天空就越是美丽。
東京で星が見えるのは珍しい。だがインフラを支える人間の半分がログイン中だ。文明が傾いた分だけ、空が綺麗になっていく。
我从小就喜欢星星。
子どもの頃から、星が好きだった。
我从图书馆借来了宇宙图鉴,反复阅读,直到封面都快被我翻烂了。土星的环,木星的大红斑,距离仙女座银河两百五十万光年。虽然我并不理解数字的意义,但其规模之大令我震撼不已。
図書館で借りた宇宙の図鑑。表紙がボロボロになるまで読んだ。土星の環。木星の大赤斑。アンドロメダ銀河までの距離、二百五十万光年。数字の意味は分からなかったけど、その大きさに胸が震えた。
我曾经想成为宇航员。
宇宙飛行士になりたかった。
直到初中我才明白这是不可能的,因为我的视力不够。即便如此,我也没有放弃对宇宙的向往,大学选择了物理学专业,主攻宇宙物理学。
無理だと分かったのは中学の時だ。視力が足りなかった。それでも宇宙を諦めきれなくて、大学は物理学科を選んだ。宇宙物理学。
在那里——我遇见了户冢教授。
そこで——戸塚教授に会った。
他是一位头发花白的消瘦男人。虽然话不多,但一聊起宇宙就停不下来。我经常泡在研究室里,和他一起喝咖啡计算红移。教授写公式,我负责追着他的思路走。虽然很多时候我跟不上他的思路,但还是非常开心。
白髪交じりの痩せた男。口数は少ないが、宇宙の話になると止まらなくなる。研究室に入り浸って、二人でコーヒーを飲みながら赤方偏移の計算をした。教授が式を書き、俺がそれを追う。追いつけないことの方が多かった。でも楽しかった。
教授。
教授。
他最后说了什么?
あの人は、最後に何を言っていた?
——宇宙是粉红森林。
——宇宙は、ピンクの森林だ。
我完全不明白他在说什么。
何が何だか分からない。
粉红森林。
ピンクの森林。
在这片星空的某处,有TS星人在向我们发送信号。
この星空のどこかに、TS星人がいる。俺たちに信号を送り続けている。
教授在那个信号中看到了什么?
その信号の中に、教授は何を見たのか。
——说到底,为什么我会被选为最终防壁?
——そもそも、なぜ俺が最終防壁に選ばれた?
沃尔科夫是世界最强的军人,杜邦是脑科学的权威,华莱士是最接近核按钮的政治家。
ヴォルコフは世界最強の軍人。デュポンは脳科学の権威。ウォレスは核のボタンに最も近い政治家。
而我,只是个宇宙物理学专业研究生辍学的便利店打工仔。
俺は、宇宙物理学科の院を中退したコンビニのバイトだ。
路人角色。论坛上是这么称呼我的。我也这么觉得。
モブ枠。掲示板はそう呼んでいる。俺もそう思う。
但是,TS星人会毫无意义地指名我吗?让四十二亿人堕落的智慧,会把一个名额用在路人角色上吗?
だが、TS星人が無意味な指名をするだろうか。四十二億人を堕とした知性が、一枠をモブに使うか?
因为我是教授的弟子。我只能想到这个理由。他们赌上了教授发现了什么,而我可能知道后续的可能性。
教授の弟子だから。それしか思いつかない。教授が何かを見つけて、俺がその続きを知っている可能性に、あいつらが賭けた。
・・・
・・・
我回到高层公寓,冲了个澡。喝着护卫山田先生泡的咖啡——突然想起了教授的咖啡。在研究室喝的稀释即溶咖啡。那边的咖啡更好喝。
タワーマンションに戻り、シャワーを浴びた。護衛の山田さんが淹れてくれたコーヒーに口をつけ——ふと、教授のコーヒーを思い出した。研究室で飲む薄いインスタントコーヒー。あっちの方がうまかった。
我拿起联合国的联络终端。
国連の連絡端末を手に取った。
最终防壁专用线路。其他三人用这个调动军队,建造研究设施,签署国际条约。
最終防壁専用の回線。他の三人は、これを使って軍隊を動かし、研究施設を建て、国際条約を書いた。
「我是最终防壁佐久间健吾。我有一个请求。」
「最終防壁・佐久間健吾です。一つ、お願いがあります」
「请尽管说,佐久间先生。」
「なんなりと、佐久間さん」
联络官的语气很礼貌。太礼貌了。他并不期待我。
担当官の声は丁寧だった。丁寧すぎた。期待していないのだ。
「卫星。尽可能多一点。」
「衛星を。できる限り」
沉默。
沈黙。
「……卫星,是吗?」
「……衛星、ですか」
「是的。因为我喜欢宇宙。」
「はい。宇宙が好きなので」
感觉通话的另一端,有人发出了扶额的声音。
通話の向こうで、誰かが額を押さえる音がした気がした。
「……可以再具体地告诉我用途——」
「……用途を、もう少し具体的にお聞きしても——」
「最终防壁的真正战略,只存在于本人的脑海中——是这样没错吧?」
「最終防壁の真の戦略は、本人の頭の中にだけ存在する。——そうでしたよね?」
「……明白了。我这就去安排。」
「……承知しました。手配いたします」
通话结束了。
通話が切れた。
放下终端后,我想象了一下联合国总部的会议室里发生了什么。『果然第四个家伙派不上用场』——。
端末を置いた後、国連本部の会議室で何が起きているか、想像がついた。「やはりあの四人目は使えない」——。
无所谓。
構わなかった。
窗外,早晨的东京。天空从高楼的缝隙间探出头来。
窓の外。朝の東京。ビルの隙間に空が覗いている。
教授所看到的东西,就在那片天空的彼端。
教授が見たものが、あの空の向こうにある。
桌子的角落里,手提箱的扣子映出了我的脸。
テーブルの隅で、アタッシュケースの留め金が俺の顔を写している。
溶壁者,是身边的人。
溶かし屋さんは、身近な人間がなる。
沃尔科夫是冰雨。杜邦是丈夫珂赛特。华莱士也迟早会有人来。
ヴォルコフは氷雨に。デュポンは夫のコゼットに。ウォレスにも、いずれ誰かが来るだろう。
我身边,没有这样的人。
俺には、誰もいない。
所以我才觉得安全。
だから安全だと思っていた。
不对,我的溶壁者,就是我自己。
違う、俺の溶かし屋さんは、俺自身だ。
第五話 自由の国
第五话 自由之国
深夜的大学校园内,死气沉沉。
深夜の大学構内は、死んでいた。
路灯有一半都熄灭了,因为基础设施人员正在登入中。昏暗的校园内,只有我和山田先生两人在走着。
街灯は半分が消えている。インフラ要員がログイン中だからだ。暗い構内を、俺と山田さんの二人だけが歩いていた。
理学部大楼,紧急逃生梯,三楼。走廊上的日光灯只有一盏在闪烁。
理学部棟。非常階段。三階。廊下の蛍光灯が、一本だけ点滅していた。
户冢教授的研究室门开着——门锁被破坏了。
戸塚教授の研究室のドアは開いていた。——鍵が壊されている。
山田先生的手臂伸到我的胸前。
山田さんの腕が、俺の胸の前に伸びた。
「请退后。」
「下がってください」
两个人,穿着西装,戴着头显,在翻找教授的桌子。
二人。スーツ。ヘッドセット着用。教授のデスクを漁っている。
「TSO。」
「TSO」
TSO的特工在教授的研究室里——这表示TS星人也知道教授的研究价值。
TSOの工作員が教授の研究室にいる。——TS星人も、教授の研究の価値を知っているということだ。
「你能跑吗?」
「走れますか」
我静静点头,山田先生拿起走廊上的灭火器。
俺が静かに頷くと、山田さんが廊下の消火器を手に取った。
「——就是现在!」
「——今!」
灭火器喷射,白色粉末吞噬了研究室。
消火器が噴射された。白い粉末が研究室を呑み込む。
我跑过去,桌子,抽屉,三本笔记本,全部抓在手里。
走った。デスク。引き出し。ノートが三冊。全部掴んだ。
背后传来椅子倒下的声音,山田先生压制住一个人,另一个人站了起来,摘下头显——那是年轻女人的脸,眼神空洞。
背後で、椅子が倒れる音。山田さんが一人を組み伏せている。もう一人が立ち上がった。ヘッドセットを外した——若い女の顔。目が、虚ろだった。
『佐久间先生,逃也没用哦♪』
『佐久間さん、逃げても無駄だよ♪』
从女人口中发出的是Navi子的声音。
女の口から出たのは、ナビ子の声だった。
我的脚僵住了。
足が竦んだ。
「快跑!」
「走れ!」
山田先生的怒吼让我回过神来,连滚带爬地冲下楼梯。
山田さんの怒号。我に返った。階段を転がるように駆け下りた。
停车场。山田先生用渗血的拳头追了上来。引擎发动,轮胎发出声响。后视镜中,理学部大楼的窗户亮起了粉红色的光。
駐車場。山田さんが血の滲んだ拳で追いついた。エンジン。タイヤが鳴った。バックミラーの中で、理学部棟の窓にピンクの光が灯っていた。
・・・
・・・
回到公寓。灭火剂的粉末还残留在衣服上。我连澡都没洗,就打开了教授的笔记本。
タワマンに戻った。消火剤の粉が服に残っている。シャワーも浴びず、教授のノートを開いた。
从TS体的源代码中提取的信号模式。波形。频率分析。教授用纤细的笔迹,密密麻麻地注释着。
TS体のソースコードから抽出された信号パターン。波形。周波数分析。教授の細い字で、びっしりと注釈。
最后一页。只有一行字。
最後のページ。一行だけ。
——宇宙,是粉红森林。
——宇宙は、ピンクの森林だ。
果然啊。
やっぱりか。
墙上的电视一直开着。
壁のテレビが、つけっぱなしのまま映っていた。
『——最终防壁华莱士前副总统于今日宣布,将强制回收VR机器。赞同国为十七国。北欧、亚洲数国拒绝回收,外交关系恶化——』
『——最終防壁ウォレス元副大統領は本日、VR機器の国際的な強制回収を宣言。賛同国は十七カ国。北欧・アジア数カ国は回収を拒否、外交関係の悪化が——』
画面切换。在某个城市,堆积如山的头戴式显示器正在燃烧。
映像が切り替わる。どこかの都市で、ヘッドセットの山が燃やされていた。
・・・
・・・
『呀————小科赛尔今天也在卿卿我我————!』
『きゃーーーーコゼマルが今日もイチャイチャしてるーーー!』
『别这样。不要叫我小科赛尔。』
『やめて。コゼマルって呼ばないで』
『话说玛格丽特酱把眼镜拿下来,会不会太新鲜了?』
『てかマルグリットちゃん眼鏡外してんの新鮮すぎない?』
『……已经不需要了。』
『……もう、要らないから』
『好帅……天才科学家的性感……』
『かっこいい……天才科学者の色気……』
『科赛特在帮玛格丽特酱梳头发……好神圣……要死了……』
『コゼットちゃんがマルグリットちゃんの髪梳いてる……尊い……死ぬ……』
「大家的房间♡」今天也很甜蜜。
ワールド「みんなのおへや♡」は、今日も甘かった。
『话说回来,原来珂赛特有砂糖啊!? 我还是第一次听说!?』
『ていうかコゼットちゃんお砂糖いたの!? 初耳なんだけど!?』
『诶,我上周才和珂赛特酱油了!? 那算什么啊!?』
『えっ私コゼットちゃんと先週お醤油したんだけど!? あれは何だったの!?』
『和我在一起的时间是玩玩而已吗!?』
『遊びだったの!? 私との時間は!?』
『不……我们在现实中也是夫妻啊……』
『いや……僕たち現実でも夫婦なんだけど……』
聊天室一瞬间停了下来。
チャットが、一瞬止まった。
『哈?』
『は?』
『诶?』
『え?』
『等一下????』
『ちょっとまって????』
『现实中的砂糖?????』
『リアルお砂糖ってこと?????』
『别说多糖类了,根本就是真砂糖啊!!!!』
『多糖類どころかガチ砂糖じゃん!!!!』
『怎么可能赢得了现实中的夫妻啊!!!』
『勝てるわけないじゃん現実夫婦には!!!』
『脑科学家×临床心理学者的夫妻在VR里砂糖是什么鬼? 也太强了吧??』
『脳科学者×臨床心理士の夫婦がVRでお砂糖してるってなに? 最強すぎない??』
『……谢谢。大家,好温暖啊。』
『……ありがとう。みんな、あったかいね』
玛格丽特简短的话语,让爱心贴图像山一样降了下来。
マルグリットの短い言葉に、ハートのスタンプが山のように降ってきた。
『亚历酱,你怎么想?』
『アレクちゃんはどう思う? 先輩として』
『别,别问我!我还没有……那个……砂糖……』
『わ、私に振るな! 私はまだ……その……お砂糖は……』
『你说了“还没有”————!!!!』
『「まだ」って言ったーーー!!!!』
『不,不是!我说错了!』
『ち、違う! 言い間違いだ!』
『这是亚历酱第几次“还没有”了?』
『アレクちゃんの「まだ」、何回目?』
『你有数吗!?』
『数えてるの!?』
在笑声,颜文字和贴图满天飞的聊天室里,有一个账号静静地发了消息。
笑い声と絵文字とスタンプが溢れる中、一人だけ静かに書き込んでいるアカウントがあった。
『这里,好自由啊……』
『ここ、自由ですね……』
名字是——莉贝缇。
名前は——リベルテ。
『啊,莉贝缇!你是最近加入的吧!欢迎~♪』
『あ、リベルテちゃん! 最近入った子だよね! ようこそ〜♪』
『我,我会努力的……我可以留在这里吗……?』
『が、がんばります……ここにいていいですか……?』
『当然可以!这里就是大家的家哦♡』
『もちろん! ここはみんなの場所だよ♡』
冰雨回复了一条消息。
氷雨が一つだけレスをした。
『很高兴你能融入我们。——大家一开始都是这样的吧?』
『馴染んでくれて、嬉しいな。——みんな、最初はそうだったでしょ?』
莉贝缇没有回复,而是发了一个小小的爱心贴图。
返信の代わりに、リベルテは小さなハートのスタンプを送った。
・・・
・・・
华盛顿特区。白宫西翼。
ワシントンD.C.。ホワイトハウス・ウエストウィング。
詹姆斯・华莱士前副总统走在走廊上。
ジェームズ・ウォレス元副大統領は、廊下を歩いていた。
皮鞋在坚硬的地板上发出声响。他没有带护卫。接下来要说的内容不能让任何人听到。最终防壁的战略只存在于本人的脑海中。
革靴の音が硬い床に響く。護衛は置いてきた。今から話す内容は、誰にも聞かせるわけにはいかない。最終防壁の戦略は、本人の頭の中にだけ存在する。
一切都按照计划进行。只差最后一步——战争就要爆发了。
計画通りだった。あと一押しで——戦争になる。
华莱士的嘴角微微上扬。
ウォレスの唇が、微かに持ち上がった。
总统办公室。
大統領執務室。
他敲了敲门。
ドアをノックした。
「进来吧。」
「入りたまえ」
声音很沉稳。华莱士侍奉了四年之久的男人——理查德・摩根总统。六十七岁。白发。脸上总是挂着温和的笑容。支持率——虽然这个数字已经没有意义了——曾经超过百分之七十,是「国民之父」。
声は穏やかだった。ウォレスが四年間仕えた男。リチャード・モーガン大統領。六十七歳。白髪。温厚な笑みを絶やさない。支持率は——もはや意味のない数字だが——かつて七十パーセントを超えた、「国民の父」。
「总统,我来报告状况了。」
「大統領。状況を報告します」
华莱士没有坐在沙发上,而是站在办公桌前。这是政治家的姿势。四年的时间让他习惯了这种距离感。
ウォレスは、ソファに座らなかった。立ったまま、デスクの前に立った。政治家の姿勢。四年間で身に染みた距離感。
「对于VR机器的强制回收,北欧三国和ASEAN四国正式表明了拒绝的态度。」
「VR機器の強制回収に対し、北欧三カ国とASEAN四カ国が正式に拒否を表明しました」
「……这样啊。」
「……そうか」
「挪威暗示要退出联合国。芬兰召回了驻美大使馆人员,瑞典冻结了NATO的共同演习。」
「ノルウェーは国連脱退を示唆。フィンランドが在米大使館員を引き揚げ、スウェーデンはNATOの共同演習を凍結しました」
摩根总统在办公桌对面十指交叉,表情没有变化。
モーガン大統領は、デスクの向こうで指を組んだ。表情は変わらなかった。
「继续。」
「続けて」
「拒绝回收的国家正在建立非正式的联络渠道。如果放任不管——他们会联合起来。经济制裁无法阻止他们。国民过半数沉溺于TS体的国家认为回收是侵犯主权。对他们来说,没收VR机器就是开战的理由。」
「回収拒否国は非公式の連絡チャネルを構築しつつあります。このまま放置すれば——連合になります。経済制裁では動きません。国民の過半数がTS体に沈んだ国は、回収を主権の侵害と呼んでいる。彼らにとってはVR機器の没収が開戦理由です」
「也就是说?」
「つまり?」
「升级的阈值下降了。如果发生偶发性的武力冲突,就会产生连锁反应。」
「エスカレーションの閾値が下がっています。偶発的な武力衝突が起きれば、連鎖します」
华莱士报告完毕,停顿了一下。这是为了说出下一句话而留出的空档。
ウォレスは報告を終え、一拍置いた。次の一言を切り出すための間。
「——需要做好准备。」
「——備えが必要です」
「什么级别的?」
「どのレベルの?」
「我建议解除核选项。不是使用,而是通过提高DEFCON来期待抑制效果。有必要让拒绝回收的国家知道我们是认真的。」
「核オプションの解除を提案します。使用ではありません。DEFCON引き上げによる抑止効果を期待しています。回収拒否国に、我々が本気だと分からせる必要がある」
「……詹姆斯。」
「……ジェームズ」
摩根的声音温度变了。
モーガンの声の温度が、変わった。
「我干了四十年的政治。为了抑制而解除核选项的人,和为了使用而解除的人,我还是分得清的。」
「四十年、政治をやってきたんだ。抑止のために核オプションを解除する人間と、使うために解除する人間の違いくらいは分かるよ」
华莱士的眼神变得锐利起来。
ウォレスの目が鋭くなった。
「我就猜猜你的计划吧。」
「君の計画を、言い当てよう」
沉默降临。总统办公室的墙上挂着历届总统的肖像画。林肯。罗斯福。肯尼迪。守护着这个国家的男人,用他们的眼睛俯视着两人。
沈黙が落ちた。大統領執務室の壁に、歴代大統領の肖像が並んでいる。リンカーン。ルーズベルト。ケネディ。この国を守ってきた男たちの目が、二人を見下ろしていた。
「你不是为了抑制。你是想引发战争。」
「抑止じゃないね。君は戦争を起こしたいんだ」
华莱士没有否认。
ウォレスは否定しなかった。
「核电磁脉冲和成层圈粉尘。物理性地遮断来自宇宙的TS体信号。文明的基础设施会毁灭。但是——人类,还能保持人类的样子」
「核電磁パルスと成層圏粉塵。宇宙からのTS体信号を物理的に遮断する。文明のインフラは壊滅する。だが——人類は、人類のままでいられる」
这个男人,一字一句地读出了本应只存在于他脑海中的计划。
頭の中にだけあるはずの計画を、この男は一言一句読み上げている。
「……正是如此。为了取回人类的尊严——」
「……その通りです。人類の尊厳を取り戻すために——」
「詹姆斯。」
「ジェームズ」
摩根总统打开了办公桌的抽屉。
モーガン大統領が、デスクの引き出しを開けた。
他取出的是——粉色的,猫的徽章。
取り出したのは——ピンク色の、猫のバッジ。
「那是——」
「それは——」
「TSO的会员章——我在TSO的名字是,莉贝缇。」
「TSOの会員章だよ。——私のTSOでの名前は、リベルテ」
华莱士的脸色变得苍白起来。
ウォレスの顔から、血の気が引いた。
莉贝缇(liberty)。自由。
リベルテ。自由。
「是第三位溶壁者。」
「溶かし屋さんの、三人目だ」
华莱士的手在颤抖。这个男人。他侍奉了四年。信赖了四年。这个男人,是美国这个国家的最高权力者。而这个男人——。
ウォレスの手が震えた。この男。四年間仕えてきた。信頼してきた。アメリカという国の最高権力者。その男が——。
「……从什么时候开始的?」
「……いつから」
「半年前。TS体开始普及的时候,我产生了兴趣。在总统工作的空闲时间,稍微玩了玩。——最初,只是想稍微玩玩。」
「半年前からだよ。TS体が広まり始めた頃、興味を持ってね。大統領の執務の合間に、少しだけ。——最初は少しだけ、のつもりだった」
摩根站了起来。他身材魁梧。六十七岁了,背脊却依然挺直。但是,他的眼睛,不是华莱士所知的「国民之父」的眼睛。而是更加柔和,更加——平静的眼睛。
モーガンは立ち上がった。大きな体。六十七歳にしては背筋がまっすぐだ。だがその目は、ウォレスが知っている「国民の父」の目ではなかった。もっと柔らかくて、もっと——穏やかな目だった。
「你的计划很完美。用核脉冲和粉尘遮断信号。文明会崩坏,但人类会从TS中解放出来。从理论上来说——是正确的。」
「君の計画は完璧だ。核パルスと粉塵で信号を遮断する。文明は崩壊するが、TSからは解放される。論理的には——正しい」
「那么——」
「なら——」
「但是正确性,和动机是两回事。」
「だが正しさと、動機は別物だ」
华莱士眯起了眼睛。
ウォレスの目が細まった。
「动机很明确。是为了人类的尊严——」
「動機は明白です。人類の尊厳を——」
「詹姆斯。在回到石器时代的世界里,谁会活下来?」
「ジェームズ。石器時代に戻った世界で、誰が生き残る?」
「…………」
「…………」
「基础设施消失的话,医疗和食物供给都会崩坏。最初的一年就会死几十亿人吧?你是计算过这些才说的吧?」
「インフラが消えれば、医療も食料供給も崩壊する。最初の一年で何十億死ぬ? 君はそれを計算した上で言っているんだろう?」
「这是必要的牺牲。」
「必要な犠牲です」
华莱士的声音没有动摇。这是四年间,在肚子里温存的觉悟。
ウォレスの声は揺らがなかった。四年間、腹の中で温めてきた覚悟だ。
「核弹会杀死数十亿人,文明会消失。但是TS的信号也会消失。剩下的人类——能继续做人类。这就是尊严。」
「核で数十億が死に、文明が消える。だがTSの信号も消える。残った人類は——人類のままでいられる。それが、尊厳です」
摩根沉默了许久,然后点了点头。
モーガンは、長い沈黙の後、頷いた。
「——是啊。你是认真的。有觉悟,也有计算。」
「——そうだね。君は本気だ。覚悟も計算もある」
「那么——」
「ならば——」
「但那不是守护,詹姆斯。——是殉情。」
「だがそれは守護じゃない、ジェームズ。——心中だよ」
华莱士握紧了拳头。
ウォレスの拳が握られた。
「不是殉情。」
「心中ではありません」
「把想守护的人卷进来一起死,就是殉情。」
「心中だよ。守りたい人間を巻き込んで死ぬのを、心中と呼ぶんだ」
「不是卷进来。是救出。从依赖中解放——」
「巻き込みではない。救出です。依存から解放する——」
「依赖?」
「依存?」
摩根的声音平静地刺了过来。
モーガンの声が、静かに刺さった。
「詹姆斯。我已经在玩TS体了。」
「ジェームズ。私はもうTS体をやっている」
华莱士的下巴微微僵硬。
ウォレスの顎が、わずかに強張った。
「国民的过半数也是。你想守护的人们——已经站在这边了。」
「国民の過半数もそうだ。君が守ろうとしている人々は——もうこちら側にいるんだよ」
「正因为如此才要让他们清醒——」
「だからこそです。目を覚まさせなければ——」
「清醒?」
「目を覚ます?」
摩根走近了一步。
モーガンが、一歩近づいた。
「强制酒精依赖的患者禁酒,和从四十二亿人身上夺走文明——是同一个道理吗?」
「アルコール依存の患者に禁酒を強制するのと、四十二億の人間から文明ごと奪うのは——同じ論理かい?」
「这不是规模的问题。是人类这个物种的——」
「規模の問題ではありません。人類という種の——」
「那我问你。发射核弹之后,你对在石器时代的荒野上幸存下来的人们会说什么?」
「では聞こう。核を撃った後、石器時代の荒野で生き残った人々に、君は何と言うんだ?」
华莱士没有回答。
ウォレスは答えなかった。
「你对饿着肚子,生病,死在瓦砾堆里的人们说『你们守护了尊严』吗?」
「『尊厳を守った』と言うのかい? 飢えて、病んで、瓦礫の中で死んでいく人間に?」
「…………」
「…………」
「你所说的尊严,是谁的尊严?是那些死去的人的尊严吗?——还是按下按钮的自己的尊严?」
「君の言う尊厳は、誰のものだ? 死んでいく人間のものか? ——それとも、ボタンを押した自分のものか?」
华莱士的呼吸停止了。
ウォレスの呼吸が、止まった。
「你作为副总统守护了国家。通过了游戏禁止法。烧毁了VR机器——你的自我认同是『守护者』。你害怕这个身份崩塌,所以想把整个世界都毁掉。」
「副大統領として国を守ってきた。ゲーム禁止法を通した。VR機器を燃やした。——君のアイデンティティは『守る者』だ。それが崩れるのが怖い。だから世界ごと壊そうとしている」
「不对!」
「違う!」
华莱士的声音在办公室里回响。
ウォレスの声が、執務室に響いた。
「我——是守护人类的尊严——」
「私は——人類の尊厳を——」
「尊严。」
「尊厳」
摩根重复着这个词,仿佛在细细品味。
モーガンが、その言葉を噛み締めるように繰り返した。
「詹姆斯。这个国家是建立在什么之上的?」
「ジェームズ。この国は何の上に建っている?」
华莱士没有回答。因为他知道答案。
ウォレスは答えなかった。答えが分かっていたからだ。
「——自由。」
「——自由だ」
这句话落在华莱士的心底。
その一言が、ウォレスの胸の奥に落ちた。
「选择自己想成为的人。决定自己要以什么样子生活——这就是这个国家的建国理念。」
「誰になりたいかを選べる。どんな姿で生きるかを、自分で決められる。——それが、この国の建国の理念だ」
「TS只是利用了这一点。把外星人的侵略称为自由——」
「TSは——それを利用しているだけです。宇宙人の侵略を、自由と呼ぶのは——」
「利用?」
「利用?」
摩根微笑着。那是国民之父的笑容。
モーガンが微笑んだ。国民の父の笑みだった。
「詹姆斯。我啊,在TS体中第一次哭了。活了六十七年,第一次——喜欢上了自己的脸。」
「ジェームズ。私はね、TS体の中で初めて泣いたよ。六十七年生きてきて、初めて——自分の顔が好きだと思えた」
华莱士的拳头在颤抖。
ウォレスの拳が、震えていた。
「那是——对奖励系统的洗脑——」
「それは——洗脳です。報酬系への——」
「洗脑?」
「洗脳?」
摩根的声音很平静。不是愤怒,而是悲伤。
モーガンの声は穏やかだった。怒りではなく、悲しみだった。
「那我问你。六十七年间,每次照镜子都觉得这不是自己的人,第一次觉得这就是自己——你有权利把这称之为洗脑吗?」
「なら聞こう。六十七年間、鏡を見るたびにこれは自分じゃないと思っていた人間が、初めてこれが自分だと思えた。——それを洗脳と呼ぶ権利が、君にあるのかい?」
华莱士的嘴唇张开,又闭上了。
ウォレスの唇が開きかけて、閉じた。
「你要按下核弹按钮,夺走这个吗?夺走四十二亿人选择自己的自由?」
「核のボタンを押して、それを奪うのかい? 四十二億の人間から、自分を選ぶ自由を?」
「…………」
「…………」
「尊严很重要。但是——为了尊严而扼杀自由,这是暴君才会做的事啊,詹姆斯。」
「尊厳は大切だ。だが——尊厳のために自由を殺すのは、暴君のすることだよ。ジェームズ」
华莱士的膝盖微微晃动。
ウォレスの膝が、微かに揺れた。
守护?
守る?
守护谁?
誰を?
想守护的人,全都站在对面。连总统也是。
守りたい人間は、全員、もう向こう側にいる。大統領すら。
华莱士的手缓缓张开。他发现——自己紧握的东西,已经什么都不剩了。
ウォレスの手が、ゆっくりと開いた。握りしめていたものが——何もなかったことに、気づいた。
摩根从桌子的抽屉里拿出另一样东西。
モーガンがデスクの引き出しから、もう一つのものを取り出した。
是头显。
ヘッドセット。
「要不要试试看——自由是什么样的东西?」
「一度だけ、試してみないか。——自由が、どんなものか」
华莱士凝视着头显良久。
ウォレスは長い間、そのヘッドセットを見つめていた。
那是从全国没收、烧毁、破坏的东西之一。
国中から没収して、焼いて、壊してきたもの。その一つが、今ここにある。
「自由之国。」
「自由の国」
华莱士的嘴唇发出声音。
ウォレスの唇から、声が漏れた。
「……万岁。」
「……万歳」
第六話 ピンクの森林
第六话 粉红森林
我用手指勾住公事包的扣环。
アタッシュケースの留め金に、指をかけた。
我每天晚上睡觉前都会摸一摸,摸过无数次。在摩天大楼的床上,我总是在黑暗之中,只靠指尖感受公事包的冰冷触感。我没有打开过公事包,也不打算打开。
何度も触れてきた。毎晩、寝る前に。タワーマンションのベッドの上で、暗闇の中で、指先だけでその冷たさを確かめてきた。開けはしなかった。開けるつもりもなかった。
但今天我打开了。
今日、開けた。
我看见了熟悉的头戴式装置,装置的曲面上映出我扭曲的脸庞。
ヘッドセット。見慣れた曲面に、俺の顔が歪んで映っている。
「……走吧。」
「……行くか」
我戴上头戴式装置。
ヘッドセットを、被った。
……
・・・
视野变成一片白。
視界が白くなった。
接着——变成粉红色。
それから——ピンクになった。
这里是TS体的导览空间。四十二亿人最初看见的景色。这个空间里充满淡淡的粉红色光芒,什么也没有。没有地板、墙壁和天花板,只有光芒。
TS体のチュートリアル空間。四十二億の人間が最初に見た景色。淡いピンクの光が満ちた、何もない空間。床も壁も天井もない。ただ光だけがある。
好舒服。
気持ちよかった。
光芒触碰着肌肤——不对,是连同肌肤的概念一起溶解。身体的轮廓变得模糊,让人搞不清楚自己到哪里为止是自己,从哪里开始是空间。
光が肌に触れている——いや、肌という概念ごと溶かしにくる。体の輪郭が曖昧になる。自分がどこまで自分で、どこからが空間なのか分からなくなる。
我看着自己的手。那是我的手。是那双打过无数次便利商店收银机的手。然而,粉红色的粒子正在侵蚀我的手的四周。光芒从指尖渗出,界线逐渐溶解。
手を見た。俺の手だ。ごつごつした、コンビニのレジを打つ手。だがその手の周囲が、ピンクの粒子に侵食されている。指先から光が滲んで、境界が溶けていく。
……不妙。
……やばい。
这确实很不妙。
これは確かにやばい。
我三秒就明白了教授堕落的理由、沃尔科夫在镜子前哭泣的理由、杜邦背叛自己脑科学的理由、华莱士放弃核武的理由。
教授が堕ちた理由。ヴォルコフが鏡の前で泣いた理由。デュポンが自分の脳科学を裏切った理由。ウォレスが核を手放した理由。——三秒で分かった。
要是每天都沐浴在这种光芒之中,任谁都会融化。人类的大脑无法抵抗这种光芒。
こんなものを毎日浴びていたら、誰だって溶ける。人間の脳は、これに抗えるようにできていない。
但是。
だが。
我并没有闭上眼睛。
俺は目を閉じなかった。
在粉色的光芒中,我回想起了教授的算式。信号模式,相位差,反射系数。枯燥乏味的数字排列,在这个瞬间成为了将我维系在现实世界的锚。
ピンクの光の中で、教授の数式を思い出す。信号パターン。位相差。反射係数。無味乾燥な数字の羅列が、今この瞬間、俺を繋ぎ止める錨になっている。
幸好我喜欢宇宙。幸好我爱上了无聊的算式。如果没有这些,我早就溶化了。
宇宙が好きでよかった。退屈な数式に恋をしていてよかった。これがなかったら、俺はもう溶けている。
「Navi子。」
「ナビ子」
我发出了声音。自己的声音听起来格外遥远。逐渐被光芒所吞噬。
声を出した。自分の声が、やけに遠い。光に吸い込まれていく。
「出来——你在这里吧。」
「出てこい。——いるんだろ」
光芒中出现了影子。
光の中に、影が生まれた。
小小的影子。缠绕着粉色光芒的少女轮廓。不久后轮廓变得清晰——教学AI的Navi子就站在那里。
小さな影。ピンクの光を纏った少女のシルエット。やがて輪郭がはっきりして——チュートリアルAIのナビ子が、そこに立っていた。
粉色的头发。大大的眼睛。Q版的等身。将四十二亿人引导到“这一侧”的,外星人制作的吉祥物角色。
ピンクの髪。大きな目。デフォルメされた等身。四十二億の人間を「こっち側」に案内した、宇宙人の作ったマスコットキャラクター。
『你好!我是Navi子!初次体验TS体,很兴奋吧!首先来创建角色——』
『こんにちは! ナビ子だよ! はじめてのTS体、ワクワクするね! まずはアバターを——』
「你就是TS星人吧?」
「お前が、TS星人だろ」
Navi子的动作停了下来。
ナビ子の動きが、止まった。
一拍。
一拍。
然后——Navi子的眼神变了。Q版的造型没有变化,只有眼神深处的性质发生了改变。程序设定的可爱感消失了,取而代之的是某种别的东西。
それから——ナビ子の目の色が、変わった。デフォルメされたキャラクターの造形はそのままに、瞳の奥にある質だけが入れ替わった。プログラムされた愛嬌が消えて、別の何かが覗いた。
『…………』
『…………』
「你没有否定,也就是说默认了。」
「黙ってるってことは、否定しないんだな」
『……你是第四个吧?』
『……あなたは、四人目ですね』
声调变了。吉祥物角色的甜美声音依旧,只有内在变成了别的东西。
声のトーンが変わっていた。マスコットキャラの甘い声のまま、中身だけが別物になっている。
「让四十二亿人堕落,击溃了三道最终防壁——最后剩下我。便利店的打工仔。」
「四十二億人を堕として、最終防壁を三人潰して——残りが俺。コンビニのバイト」
『是的。只有你没有来。』
『はい。あなただけが、来ませんでした』
Navi子歪了歪头。这不是程序设定的动作,而是真正的困惑。
ナビ子が首を傾げた。プログラムされたモーションではない、本物の困惑だった。
『——为什么?』
『——なぜ?』
「因为我喜欢宇宙。」
「宇宙が好きだから」
『……?』
『……?』
「我每天晚上一边看着星星一边思考你们的信号,和教授留下的算式一起——让我来告诉你吧。虽然我只是现学现卖。」
「お前たちの信号を、毎晩、星を見ながら考えてたんだよ。教授が遺した数式と一緒に。——教えてやる。教授の受け売りだけどな」
我向Navi子走近一步。粉色的光芒包裹着身体。好舒服。大脑好像要融化了。但是刻在脑海里的算式勉强让我保持清醒。
俺は一歩、ナビ子に近づいた。ピンクの光が体を包んでいる。気持ちいい。脳が溶けそうになる。だが頭の中に刻んだ数式が、辛うじて俺を繋ぎ止めている。
「你们发送给地球的游戏信号,并不是单向的——是可以反射的。」
「お前たちが地球に送ってるゲームの信号。あれは一方通行じゃない。——反射できる」
Navi子的表情第一次发生了变化。
ナビ子の表情が、初めて動いた。
『……你在说什么?』
『……何を、言っているんですか?』
「地球的卫星阵列,可以把你们的信号反射回宇宙。」
「地球の衛星アレイで、お前たちの信号を宇宙に跳ね返す」
『那又怎么样呢?』
『それが、どうなるんですか』
「通过原信号和反射信号的相位差,第三方文明可以锁定你们的坐标」
「原信号と反射信号の位相差から、第三者の文明がお前たちの座標を特定できる」
Navi子的身体僵住了。坐标。这个词明显让她产生了反应。
ナビ子の体が硬直した。座標。その一語に、明らかに反応した。
「教授说过——宇宙是粉红森林。」
「教授が言ってたよ。——宇宙は、ピンクの森林だ」
『——请住口。』
『——やめてください』
「坐标暴露的文明,会被其他文明覆盖。」
「座標がバレた文明は、塗り替えられる」
『住口——』
『やめて——』
「我一直觉得很不可思议。宇宙有这么多星星,为什么谁都没发现呢?——这就是所谓的费米悖论。」
「ずっと不思議だったんだよ。宇宙にはこれだけ星があるのに、なぜ誰も見つからなかったのか。——フェルミのパラドックス」
Navi子沉默了。
ナビ子が黙った。
「答案很简单。因为被发现就完了。坐标暴露的文明会被覆盖。所以所有人都保持沉默——只有你们向地球发送信号。真是胆大包天啊?」
「答えは簡単だった。見つかったら終わりだからだ。座標がバレた文明は塗り替えられる。だから全員、黙っている。——お前たちだけが、地球に向かって信号を撒き散らしている。随分と大胆だな?」
Navi子——笑了。那是颤抖的笑容。
ナビ子が——笑った。震える笑みだった。
『……你没注意到吗?反射的话,地球的坐标也会暴露。你们也会被上位文明——变成被覆盖的一方。』
『……気づいていないんですか? 反射すれば、地球の座標も晒されますよ。あなたたちも、上位文明に——塗り替えられる側になる』
「嗯,我知道。」
「ああ。知ってる」
Navi子的笑容凝固了。
ナビ子の笑みが、凍った。
「开火的话,你们会死——我们也会死。和核弹的相互保证毁灭一样。你们的武器只会被镜子反射。地球的技术无法制造外星人的科技。但是,镜子的话就能做出来。」
「撃てば、お前たちも死ぬが——俺たちも死ぬ。核の相互確証破壊と同じだ。お前たちの武器を鏡にするだけだ。地球の技術じゃ宇宙人のテクノロジーは作れない。でも、鏡なら作れるんだよ」
Navi子——第一次后退了。
ナビ子が——初めて、後ずさった。
『…………你是认真的吗?』
『…………本気、ですか』
「卫星阵列已经和我的终端连接了。启动只需要不到一秒。」
「衛星アレイは俺の端末に接続してある。起動するのに一秒もかからない」
『…………你打算使用它吗?』
『…………あなたは、それを使うつもりですか』
「不会用的。因为我们会死——但是,我们能使用哦?这个事实很重要」
「使わないよ。俺たちも死ぬからな。——でも、使えるぞ? という事実が大事なんだ」
「还有啊。」
「それとさ」
Navi子抬起了头。
ナビ子が顔を上げた。
「把所有人都溶化掉之后,你们打算怎么办?」
「全員溶かした後、どうするつもりだった?」
『…………』
『…………』
「TS体是第一梯队吧。让人类无力抵抗——然后主力部队就会过来。不是吗?」
「TS体はフェーズ1だろ。無力化して、抵抗できなくして——それから本隊が来る。違うか?」
Navi子没有回答。沉默就是回答。
ナビ子は答えなかった。沈黙が、答えだった。
「已经来不了了——只要有镜子在。」
「もう来れないよ。——鏡がある限りな」
Navi子盯着我看了很久。
ナビ子は長い間、俺を見つめていた。
『……前提是,你没有堕落。』
『……あなたが堕ちなければ、の話ですね』
「没错。只要我没有堕落。」
「そう。俺が堕ちなければ」
『要我让你堕落吗?』
『堕としてあげましょうか?』
Navi子微笑了。吉祥物的笑容。但是眼睛没有笑。
ナビ子が微笑んだ。マスコットキャラの笑顔。だが目は笑っていなかった。
「算了吧——我拜托杜邦博士,给我上了保险。」
「やめとけ。——デュポン博士に頼んで、保険をかけてもらった」
『保险?』
『保険?』
「脑波触发器。我堕落成TS体的瞬间——卫星阵列就会检测到脑波模式的变化,自动启动。」
「脳波トリガー。俺がTS体に堕ちた瞬間——脳波パターンの変化を検知して、衛星アレイが自動起動する」
Navi子脸上的笑容消失了。
ナビ子の顔から、笑みが消えた。
「这是应该已经堕落的脑科学家在VR中为我制作的。出乎你们的意料了吧?你们以为我堕落了就结束了吗?」
「堕ちたはずの脳科学者が、VRの中から作ってくれたんだよ。お前たちの想定外だろ? 堕としたら終わりだと思ってたか?」
漫长的沉默。Navi子——像是打出最后一张牌一样开口了。
長い沈黙。ナビ子が——最後のカードを切るように、口を開いた。
『……但是,你已经感觉到了吧?』
『……でも、あなたはもう感じたでしょう?』
声音变了。甜美回来了。是新手教程AI用来让人堕落的声音。
声が変わっていた。甘さが戻っている。チュートリアルAIの、人を堕とすための声。
『进入这个空间的瞬间,你感觉很舒服吧?——那种感觉是不会消失的。即使你用理论武装自己,身体也会记住的。』
『この空間に入った瞬間。気持ちいい、と思いましたよね? ——あの感覚は、消えませんよ。理論武装しても、体は覚えています』
粉色的光摇曳着。亮度又提高了一级。包裹着身体的光,温柔地,甜美地溶化着我。
ピンクの光が揺れた。一段、明るくなった。体を包む光が、優しく、甘く、溶かしにくる。
……确实很舒服。
……確かに。気持ちいい。
「……我承认。舒服得要死。」
「……認めるよ。死ぬほど気持ちいい」
Navi子的眼睛亮了。
ナビ子の目が、光った。
「但是——抱歉啊。」
「でも、——悪いな」
Navi子的眼睛失去了光芒。
ナビ子の目から、光が消えた。
「说到底,你们的想法并不新鲜。」
「そもそもな、お前たちの発想は別に新しくないんだよ」
『……诶?』
『……え?』
「把敌人变成女人使其无力化——人类在七十年前就已经想到了。美国空军认真研究过向敌军投放荷尔蒙使其女体化的炸弹,英国的谍报机构则试图在希特勒的饭菜里混入雌激素将其变成女人——你们所做的不过是规模大了点,想法却是人类的二手货。」
「敵を女にして無力化する。——人間は七十年前にもう考えてた。アメリカ空軍は敵兵にホルモンを撒いて女体化させる爆弾を本気で研究したし、イギリスの諜報機関はヒトラーの飯にエストロゲンを混ぜて女にしようとした。——お前たちがやってることは、規模がでかいだけで、発想は人間の中古品だ」
Navi子瞪大了眼睛。这是发自内心的惊讶。
ナビ子が目を丸くした。本物の驚きだった。
『……这个星球的生物,自己就想到了吗……?』
『……この星の生き物は、自分たちで思いついていたんですか……?』
「别小看人类啊。」
「人間、なめんなよ」
・・・
・・・
在那之后——世界并没有毁灭。
それから——世界は壊れなかった。
最初的一周是地狱。变成TS体的人类放弃了基础设施。停电。断水。物流瘫痪。文明就这样崩溃了——华莱士所恐惧的景象,差点就变成了现实。
最初の一週間は地獄だった。TS体に沈んだ人間がインフラを放棄した。停電。断水。物流の麻痺。このまま文明が崩壊する——ウォレスが恐れた通りの光景が、現実になりかけた。
但是,第二周发生了异变。
だが、二週間目に異変が起きた。
TS体需要VR头显。头显需要电力——也就是说,堕落的人类需要基础设施。
TS体にはVRヘッドセットが要る。ヘッドセットには電気が要る。——つまり、堕ちた人間にはインフラが要るのだ。
人们开始回到发电厂。
発電所に、人が戻り始めた。
一边在头显里当美少女,一边用现实中的手握着扳手。人们回到了自来水公司。人们回到了物流中心。为了玩TS体需要电力和自来水,社会以此为理由开始运转。虽然本末倒置——但运转起来了。
ヘッドセットの向こうで美少女をやりながら、現実の手でスパナを握る。水道局に人が戻った。物流センターに人が戻った。TS体をやるために電気と水道が必要だから、という理由で社会が回り始めた。本末転倒だが——回っている。
第一个月。企业开始将办公室转移到VR中。用TS体的虚拟形象开会,签订合同,进行演示。虽然会议记录的图标全都是美少女,但内容和以前一样。
一ヶ月目。企業がVRの中にオフィスを移し始めた。TS体のアバターのまま会議をし、契約を結び、プレゼンをする。議事録のアイコンは全員美少女だが、中身は従来通りの仕事だ。
第三个月。各国政府正式承认虚拟形象出席。联合国安理会也开始在VR中召开会议。这是猫耳大使行使否决权的时代。
三ヶ月目。各国政府がアバター出席を公式に認めた。国連安保理もVRで開催されるようになった。猫耳の大使が拒否権を行使する時代だ。
半年后——世界变得比以前更安静了。
半年が経つ頃には——世界は前より静かになっていた。
攻击性的口吻减少了。SNS的网络暴力减少了。互相争权夺利减少了。用可爱的虚拟形象和可爱的声音说话,似乎能神奇地消除尖锐的棱角。语言的障碍也消失了。通过TS体的实时翻译,全人类都在说同一种语言。
攻撃的な口調が減った。SNSの炎上が減った。マウントの取り合いが減った。可愛いアバターで可愛い声で話していると、不思議と角が取れるらしい。言語の壁も消えた。TS体のリアルタイム翻訳で、全人類が同じ言葉で喋っている。
华莱士赌上性命试图点燃的战争火种,不知不觉间一个也不剩了。
ウォレスが命懸けで起こそうとした戦争の火種が、気づけば一つもなくなっていた。
没有战斗的理由。划出国境线没有意义。民族,性别,语言——全都融合了。
戦う理由がないのだ。国境線を引く意味がない。民族も、性別も、言語も——全部、溶けた。
世界没有毁灭。只是改变了。
世界は壊れなかった。変わっただけだった。
沃尔科夫——亚历酱在TSO的社区里组织了自警团。前军人的领导能力,即使变成了美少女也依然健在。「想被亚历酱骂」的不纯志愿者蜂拥而至,似乎不缺人手。
ヴォルコフ——アレクちゃんは、TSOのコミュニティで自警団を組織していた。元軍人の統率力は、美少女になっても健在だった。「アレクちゃんに怒られたい」という不純な志願者が殺到して、人手には困っていないらしい。
还有传闻说他和冰雨在搞BL。溶化的一方和被溶化的一方别黏在一起啊。
氷雨とお砂糖しているという噂もある。溶かした側と溶かされた側でくっつくな。
杜邦——玛格丽特和丈夫珂赛特一起在VR内开了研究室。他们从内部研究TS依赖症的机制。脑波触发装置是其副产物。玛格丽特说「理解与抵抗是两回事,理解与贡献也是两回事」,没戴眼镜的脸上露出了笑容。
デュポン——マルグリットは、夫のコゼットと一緒に、VR内に研究室を開いていた。TS依存のメカニズムを内側から研究している。脳波トリガー装置は、その副産物だ。「理解と抵抗は別物だったけど、理解と貢献も別物だったわ」と、眼鏡をかけない顔で笑っていた。
华莱士——和莉贝缇一起起草了VR世界的权利章典。虚拟形象的肖像权。虚拟空间的所有权。TS体内的自治规则。曾经试图用核弹毁灭世界的男人,和阻止了那个男人的总统,以美少女的形象设计着新世界的秩序。
ウォレスは——リベルテと共に、VR世界の権利章典を起草していた。アバターの肖像権。仮想空間における所有権。TS体内での自治ルール。かつて核で世界を壊そうとした男と、その男を止めた大統領が、新しい世界の秩序を設計している。美少女の姿で。
堕落的人类,以堕落的姿态站了起来。
堕ちた人間が、堕ちたまま立ち上がっている。
TS星人应该很困惑吧。明明应该按照计划让所有人都堕落了,这些家伙却正常地运转着社会。而且看起来比以前更开心。
TS星人は困惑しているだろう。計画通りに全員堕としたはずなのに、こいつら普通に社会を回している。しかも前より楽しそうに。
第三个月的最后,发生了事件。
三ヶ月目の終わりに、事件が起きた。
TS体的电波变弱了。
TS体の電波が、弱まったのだ。
TS星人开始降低信号的输出。是判断侵略兵器没有发挥作用,还是单纯的成本问题呢——理由怎样都好。
TS星人が信号の出力を落とし始めた。侵略兵器として機能していないと判断したのか、あるいは単にコストの問題か。——理由はどうでもよかった。
世界陷入了恐慌。
世界が、パニックになった。
政府发布了紧急声明。「在TS体的信号恢复之前,请各位国民冷静行动——」联合国安理会用猫耳虚拟形象召开了紧急会议。议题是“请求宇宙文明维持TS体信号”。全体一致通过。没有人行使否决权。
政府が緊急声明を出した。「TS体の信号が復旧するまで、国民の皆さまには冷静な行動を——」。国連安保理が猫耳のアバターで緊急会議を開いた。議題は「TS体信号の維持を宇宙文明に要請する件」。全会一致だった。拒否権を行使する者はいなかった。
华莱士来到了我这里。
俺のところに来たのは、ウォレスだった。
『佐久间君。我有事拜托你。』
『佐久間くん。お願いがあるの』
曾经试图用核弹破坏一切终结TS体的男人,用美少女的声音向我低头请求。
核で全部壊してTS体を終わらせようとした男が、美少女の声で、俺に頭を下げている。
『请转告TS星人——不要停止信号。』
『TS星人に伝えて。——電波を、止めないでって』
「……你真的要这么说吗?曾经试图用核弹阻止的你?」
「……お前が言うのか? 核で止めようとしたお前が?」
『……嗯。我确实要这么说。』
『……うん。わたしが言ってる』
我给Navi子发了消息。
俺はナビ子にメッセージを送った。
『喂。你们打算停止信号吧。』
『おい。電波止めようとしてるだろ』
『……是的。因为已经没有意义了。』
『……はい。もう意味がないので』
『住手。你们要是停止信号,我就启动镜子。』
『やめろ。止めたら鏡を起動する』
『……诶?』
『……え?』
『八十亿人都说希望继续。把你们的兵器作为服务继续下去。』
『八十億人が続けてほしいって言ってる。お前たちの兵器を、サービスとして継続しろ』
漫长的沉默。
長い沈黙。
『……这个星球的生物,真的让人搞不懂。』
『……この星の生き物は、本当に意味がわかりません』
『我也不懂。但这就是人类。』
『俺もわからん。でもこれが人類だ』
信号恢复了。
電波は、戻った。
这个星球的生物,到底是怎么回事啊。
何なんだ、この星の生き物は。
・・・
・・・
便利店的夜班。深夜两点。
コンビニの夜勤。深夜二時。
我手肘撑在收银台上,看着星星。
レジに肘をついて、俺は星を見ていた。
东京的天空,看得见星星。文明越衰退,天空就越美丽——我本来是这么想的,但最近基础设施恢复了,路灯又亮了起来。是美少女们修好的。星星变得有点难看了。
東京の空に、星が見える。文明が傾いた分だけ空が綺麗になる——と思っていたが、最近はインフラが復旧して、また街灯が明るくなってきた。美少女たちが修理したのだ。星は少し見えにくくなった。
自动门打开了。
自動ドアが開いた。
戴着头显的客人进来了。最近的客人全都是头显。用真面目来的只有我。
ヘッドセットの客が入ってくる。最近の客は全員ヘッドセットだ。素顔で来るのは俺くらいのものだ。
「欢迎光临。」
「いらっしゃいませ」
没有回应。在头显的另一侧,那个人正在和别人笑谈着我是谁吧。
返事はない。ヘッドセットの奥で、この人は誰かと笑い合っているのだろう。
我——没有笑。
俺は——笑っていない。
我还记得那个新手教程空间的触感。粉红色的光包裹身体的瞬间。轮廓逐渐溶解的感觉。三秒就理解了,那种压倒性的快感。
あのチュートリアル空間の感触を、俺はまだ覚えている。ピンクの光が体を包んだ瞬間。輪郭が溶けていく感覚。三秒で理解した、あの圧倒的な気持ちよさ。
我想做。
やりたい。
我打从心底想做。
心の底から、やりたい。
但如果我堕落了,一切就结束了。
だが俺が堕ちたら、全部終わる。
完美的抑制力。完美的孤独。
完璧な抑止力。完璧な、孤独。
八十亿的人类在对面。
八十億の人間が向こう側にいる。
当着美少女,撒着糖,用可爱的声音互相欢笑,在温柔的世界里生活。堕落的最终防壁们也在各自的地方过着充实的生活。连总统都很开心的样子。
美少女をやって、お砂糖して、可愛い声で笑い合って、優しい世界で暮らしている。堕ちた最終防壁たちも、それぞれの場所で充実している。大統領すら楽しそうだ。
只有我,在这边。
俺だけが、こちら側にいる。
在便利店的收银台,用真面目,看着星星。
コンビニのレジで、素顔で、星を見ている。
手机震动了。TSO的聊天通知。
スマホが震えた。TSOのチャット通知。
『大家的房间♡』
『みんなのおへや♡』
『亚历酱,辛苦了~!今天自警团也很努力呢!』
『アレクちゃんおつかれ〜! 今日も自警団がんばってたね!』
『才、才没有努力!只是正常巡逻而已!』
『が、がんばってない! 普通に巡回しただけだ!』
『玛格丽特酱发表了新论文,是真的吗?』
『マルグリットちゃん新しい論文出したってほんと?』
『嗯。和珂赛特共同执笔。标题是秘密。』
『うん。コゼットと共著。タイトルは秘密』
『莉贝缇酱又提出政策建议了w』
『リベルテちゃんまた政策提言してるw』
『……自由的社会需要自由的规则。不要笑哦。』
『……自由な社会には、自由なルールが必要なの。笑わないで』
『冰雨呢?』
『氷雨ちゃんは?』
『我在这里哦——随时都在这里♡』
『私はここにいるよ。——いつでも、ここにいる♡』
看起来很开心。
楽しそうだな。
真的,看起来很开心。
本当に、楽しそうだ。
『啊,佐久间君还在看吗?快点过来这边啦!』
『あ、佐久間くんまだ読んでるだけ? 早くこっちおいでよ!』
冰雨传了私讯给我。
氷雨からの個別メッセージ。
『大家都在等你哦?』
『みんな待ってるよ?』
在等我。
待ってる。
等我。
俺を。
我想去。真的想去。我想跳进那道粉红色的光芒中,我也想变成美少女,和大家一起欢笑。虽然不知道砂糖和酱油是什么意思,但我想试试看。
行きたい。本当に行きたい。あのピンクの光の中に飛び込んで、俺も美少女になって、みんなと笑い合いたい。お砂糖とかお醤油とか意味わかんないけどやってみたい。
但是——我不能去。
だが——行けない。
我一旦堕落,一切就结束了。
俺が堕ちたら、全部終わる。
我只把信息标为已读,然后把手机盖起来。
既読だけつけて、スマホを伏せた。
我把额头贴在收银台。好冷。是现实的温度。
レジのカウンターに額をつけた。冷たい。現実の温度だ。
「…………最痛苦的,是我吧。」
「…………一番苦しいの、俺じゃん」
我在空无一人的便利商店里,发出声音。
声に出した。誰もいないコンビニで。
没有人回应。戴着头显的客人拿着饭团来到收银台。
返事はなかった。ヘッドセットの客が一人、おにぎりを持ってレジに来た。
「欢迎光临。」
「いらっしゃいませ」
扫描条码。「需要袋子吗?」。对方摇头。「谢谢光临——」。
バーコードを読む。「袋いりますか」。首を横に振られる。「ありがとうございましたー」。
客人离开了。
客が去った。
又剩我一个人了。
また一人になった。
窗外,看得见星星。
窓の外に、星が見えた。
人类在天堂。
人類は天国にいる。
只有我在地狱。
俺だけが地獄にいる。
——但是,没关系。
——でも、いいんだ。
我再次把手指放在公事包的扣环上。这次不打开。我已经知道里面是什么了。
アタッシュケースの留め金に、また指をかけた。今度は開けない。中身はもう、知っている。
打开的话,最后又会想戴上去。
開けたら最後、また被りたくなる。
便利商店的收银台。深夜两点。只有我一个人没戴头显。今天也看得见一点点星星。
コンビニのレジ。深夜二時。素顔の人間は俺だけ。星は今日も、少しだけ見えている。
这就是我的战场。
これが俺の戦場だ。
不能告诉任何人的战略。不能被任何人理解的孤独。不能被任何人——
誰にも明かせない戦略。誰にも理解されない孤独。誰にも——。
手机震动了。
スマホが震えた。
『佐久间先生——不想堕落吗?』
『佐久間さん。——堕ちたくないですか?』
TS星人。
TS星人。
我稍微笑了笑,输入回复。
俺は、少し笑って、返事を打った。
『想堕落到死。都是你害的。』
『死ぬほど堕ちたい。お前のせいだぞ』
『……对不起。』
『……ごめんなさい』
外星人向我道歉了。这可能是人类第一次的经验。
宇宙人に謝られた。人類初の経験かもしれない。
『但是,我不会堕落的——绝对不会。』
『でも、堕ちないよ。——絶対に』